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【後編】薬局薬剤師の本当の仕事って何ですか?- 薬局アワード対談
前編では、「みんなで選ぶ薬局アワード」の第2回受賞者・このみ薬局大曽根店の瀧藤さんが行ってきた取り組みについてのお話をうかがいました。
後編では瀧藤さんと、当イベント主催の、一般社団法人薬局支援協会代表理事・竹中孝行さんに、薬局、薬剤師が今後なすべき課題などについてお話していただきます。
”このみ薬局 大曽根店”の取組みについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください
このみ薬局が取り組んでいる、海外渡航先での感染症予防の周知
竹中
さきほど、このみ薬局さんの店舗のほうにお邪魔してきたのですが、感染症系の病気の説明や対策などが薬局内の掲示板に貼ってあったり、海外の渡航予定がある方向けの虫よけ薬やグッズなどを、標準的な薬局では置いていないだろうというレベルで揃えてあったり、とても工夫なさっているなと感心しました。
瀧藤
僕が感染症にやたらに関心があるからでもあるんですが、海外渡航先での感染症があるというのを知り、そういった対策を薬局でできたらなと思って置いてますね。
蚊が媒介生物という場合が多いのですが、渡航医学の見地からでワクチンをちゃんと打っていったほうがいいことや、虫よけのアドバイスなど、僕ら薬剤師ができることはいろいろあると思うので。
竹中
それはありがたいですね。僕は趣味で海外の山に登ったりすることあるんです。高山病の薬とか、渡航時の虫よけを重視する意義もすごくわかります。
瀧藤
案外、大々的に情報提供している薬局は、うち以外あまりないかもです(笑)。
竹中
ところで、このみ薬局さんは、老人ホームなど高齢者介護施設の訪問薬剤管理に以前から力を入れていらっしゃるんですよね。
瀧藤
僕は2009年に入社してるんですが、それよりちょっと前から始まった取り組みのようです。
このみ薬局大曽根店には、常勤の薬剤師が4名とパート2名がおりまして、門前のクリニックの処方箋業務と、訪問介護の在宅医療業務などをしています。
担当している施設は現在7件、およそ200人ほどの患者さまの薬の在宅管理をしています。
竹中
在宅で患者さまの薬を管理する中で、どのようにして抗生物質の処方を減らしているのでしょう。
そもそも、グラム染色に使う顕微鏡って、在宅に出るときは持ち歩くんですか?
瀧藤
いえ、顕微鏡は重たいので、老人ホームさんはもう、置かせてもらったりしてるところもあります。たまにしか行かないところは……持っていきますね。
たとえば、ホームの患者さまで、訪問時に施設の方からおしっこが臭いので何とかして欲しいと言われたときに、無症候性細菌尿を疑うことがあります。
高齢者の膀胱内にはある程度細菌が存在するのはよくある話でして、かと言って感染症として悪さをしている状態ではなく、基本的には抗生物質投与などの治療をしないのがセオリーですが、「患者さんの全身状態は悪くないので、抗生物質は使わずにこのままちょっと経過観察してもいいと思いますよ」というセオリー通りの提案でも、顕微鏡で見て、細菌と白血球を確認するステップが加わると、医師の納得度が変わったりするので、やったほうがいいだろうと思うんです。
竹中
確かに、在宅に行く医師でも、専門外の処方などは、同行の薬剤師がフォローできる分野だろうと思います。在宅医療における薬剤師としての可能性は、もっといろいろありそうですね。
瀧藤
総合診療医も増えてきてますが、まだまだ在宅に出られる医師は、ご自身の専門分野を頑張られてきた先生が多く、多科目にわたる総合的な勉強をされてらっしゃる先生は少ないんです。
だからこそ、当該医師の専門外のことをサポートできる薬剤師が求められる。
専門医並みに知ることは無理かもしれませんが、逆に、ある程度の範囲で僕らが総合的に把握しておくのは大事なのかなと思います。
竹中
いま瀧藤さんがお話されたこと、とても共感します。
僕が現段階で考える、いい薬局や薬剤師って、やはり突出した個性、専門性を持つことだと思うんです。
この薬局はこういう分野の治療にとても詳しいとか、高齢者の服薬管理をしてもらえるとか、乳幼児向けの薬や女性特有の病気の薬を熟知しているとか、何かに特化していくのがいいのかなと。
医師からの処方薬に対して、薬剤師として適正なアドバイスを付け加えることができるとかね。
そういう「顔の見える薬局」が増えていくと、面白い展開になると感じています。
どうですか、瀧藤さんが考える、求められる薬剤師像は何かありますか?なんか僕と同じ答えになりそうな気がするけど(笑)。
瀧藤
そうですね、同じかも(笑)。
また感染症の話になりますけど、例えば循環器系の病気で入院してる患者さんが、感染症にかかってなかなか熱が下がらないときに、循環器の先生は感染症の先生にコンサルテーションをかけたりするんですよね。
自分の専門外の分野は、専門外の医師に相談するのが病院の文化ですから。その役割を薬局も担えたらいいなと、僕は思っているんです。
瀧藤
たとえば、在宅の患者さんが発熱していて抗生物質どうしようというときに、感染症に詳しい薬剤師にコンサルテーションしてもらえるとか、西洋薬で治療うまくいかないときに、漢方が得意な薬剤師にコンサルテーションが来るとか。
在宅の分野でも薬剤師からの処方提案ができたりすると面白いし、患者さんのためにもなる気がするんです。地域の連携も大事ですよね。
オールラウンドに知識を掘り下げるのは結構大変だと思いますから、ある程度は把握しておいて、かつ専門性をもって情報共有できるようにする。主治医も専門外の薬では困ることもあると思います。
患者さまに副作用が出ている疑いがあるときに、患者さまの訴えや身体所見を確認して、医師に提案できるようにしていくとか。
竹中
薬局の薬剤師が、地域医療の担い手としていま以上に必要とされていく活躍ができるといいですよね。
というのも、今後、薬局が向かっていく方向性としては、大きくふたつに分かれていくと思います。
ひとつは健康サポート機能ですね。検体測定室のように検査ができたり、予防医学の見地から、街の「健康窓口」を目指す薬局。もうひとつは、職能そのものを生かして、薬剤師本来の仕事を深める薬局です。
僕自身は、やはり後者を支持したいんですね。そうでないと、そもそも医薬分業した意味がわからなくなってしまうので。
瀧藤さんがやっていらっしゃるグラム染色も、処方箋が適正かどうかの目安になりうるし、すばらしいですよね。医薬分業も、最初はそういう連携のかたちも想像していたのではないかと思うんですよね。
瀧藤
そのふたつはどちらも必要な分野だと思うのですが、僕としては、薬局薬剤師も専門を持ってやっていくという道を選ぶと思います。
薬剤師としての使命の棚卸しにもなる「薬局アワード」。一般消費者へどう浸透させるかが、今後の課題
竹中
ところで、このみ薬局さん自身が抱える課題について、瀧藤さんが感じていらっしゃることは何かありますか?
瀧藤
うちに限らない課題という気もしますが、なすべき仕事に対する時間をいかに作っていくかですね。
僕の場合は、管理薬剤師をやっていると、患者さまと接する時間がどんどん減っていくのが悩みなんです。
在宅薬学会の狭間先生の記事にもありましたが、病院の医師は専門ができると、それに対する勉強やら何やらをどんどん進めていくと思うんですけど、薬局の薬剤師は、30~40代になると管理職になり、管理業務のほうにどんどん仕事がシフトしていっちゃうんです。
それをやりながら、現場の医療に求められる知識深めていくのが物理的に厳しい。時間マネジメントでどう解決していくかは課題ですね。
竹中
そんな高いハードルを抱えながらではありますが、まだやってないけれどやりたいこととか、瀧藤さんはありますか?
瀧藤
やりたいことだらけですよ。その筆頭は、トラベルファーマシーの設立です。
このみ薬局で、海外渡航者向けの物品を多く扱うのも、その一環です。「日本渡航医学会」というのがあるのですが、そこでは「トラベルクリニックに合わせて、トラベルファーマシーっていうのを作ろう」という話はすでに上がっています。
竹中
それでは最後に、来年「みんなで選ぶ薬局アワード」に挑戦してくださる薬剤師さん向けにメッセージをお願いします。
瀧藤
応募は、自分の活動を見直すきっかけにもなりました。
先進的なことほど、最初はまったくお金にならないことも多い。それを経営陣に認めてもらうためには、やはり薬局の中だけで一生懸命やってもなかなか認めてもらえないというか。
こうした形で外部から、つまり社会や世間から評価されると、一気にやりやすくなりますね。僕自身も再評価できてよかったです。
竹中
イベントの主催側として思うのは、プレゼンターたちのすばらしい取り組みを薬剤師、確かに薬局業界で発表し合うということはすごく大切なことすが、一般の方たちに、こういうことを薬局がやっているというのを知ってもらうことも非常に大切で。協会としては、ますますそれを目指したいですね。
いま薬局はこういうふうに変わろうとしている。患者さま自身が、治療のために薬局は自分で選ぶものということに気づいていただけるよう、伝えていかなくてはと決意を新たにしたところです。
そうしないと、薬局がある意義が世の中にいまひとつ伝わらないと思うので、そこを「薬局アワード」としてもがんばっていきたいですね。瀧藤さん、ありがとうございました。
たけなか・たかゆき 株式会社バンブー 代表取締役、一般社団法人薬局支援協会 代表理事、薬剤師。1984年、静岡県出身。共立薬科大学卒。外資系製薬会社に勤務後、独立。薬局事業、岩盤浴やエステなどの美容事業、医療機関向けのECサイト運営などのメディア事業、介護事業、ゆるキャラ事業などを手がける。
たきとう・しげみち このみ薬局 大曽根店 薬剤師。1983年、愛知県出身。名城大学卒業後、2009年、株式会社ファーマアシスト入社。このみ薬局大曽根店は、2011年、名古屋市北区の大曽根駅近くに開局。訪問診療の薬剤師同行にも力を入れていて、老人ホーム等の施設を中心に、数多くの患者さまのおくすり管理を担っている。
ファーマシストライフ編集部 (取材・文/三浦天紗子、写真/松井なおみ)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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