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薬局業界に新風を吹き込んだ2人の対談 – いま、薬局にできることって何だろう【前編】
「みんなで選ぶ 薬局アワード」で最優秀賞を受賞したヒルマ薬局 小豆沢(あずさわ)店の比留間康二郎さんと、薬局支援協会 代表理事の竹中孝行さんが、これからの薬局・薬剤師をテーマに話し合う特別対談
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去る2017年4月9日、都内で、「みんなで選ぶ薬局アワード」が開催されました。
みんなで選ぶ薬局アワードでは、全国から創意工夫をしている薬局の取り組みを募集。多くの人たちに薬局は何ができるのかを知ってもらい、薬剤師の仕事の可能性を拡げていくためのイベントです。
「みんなで選ぶ 薬局アワード」2017 の様子は、以下の記事で詳しく紹介しています
第1回目の栄冠に輝いたのは、東京・板橋にあるヒルマ薬局小豆沢店代表の比留間康二郎さん。
当イベントを主催する、一般社団法人薬局支援協会代表理事の竹中孝行さんに、最優秀賞に選ばれたヒルマ薬局の魅力に迫ってもらいます。
対談者プロフィール
比留間康二郎さん
ひるま・こうじろう ヒルマ薬局 取締役、東京薬科大学 非常勤講師、薬剤師。1980年生まれ、東京都出身。東京薬科大学卒。東京・池袋で四代続く歴史を持つヒルマ薬局。約20年前に東京・板橋に開局した小豆沢店は、保険調剤や医薬品の販売、健康相談や在宅介護支援などを通して、地域医療のために貢献している。
竹中孝行さん
たけなか・たかゆき 株式会社バンブー 代表取締役、一般社団法人薬局支援協会 代表理事、薬剤師。1984年生まれ、静岡県出身。共立薬科大学卒。外資系製薬会社に勤務後、調剤薬局勤務を経て独立。薬局事業、介護事業、岩盤浴ヨガやエステなどの美容事業、コラム執筆・監修などのメディア事業、ゆるキャラ事業などを手がける。
強みは、お客さまのニーズに応えられるスタッフが多数いること
竹中
第1回みんなで選ぶ薬局アワード、最優秀賞を受賞されました。おめでとうございます。
比留間
審査のあとで決起大会のような集まりがあり、お話をうかがっていたら、すばらしい取り組みをされている薬局がたくさんあって、正直、自分のプレゼンで大丈夫だろうかとどんどん不安になりました。
当日もまるで自信はなかったのですが、応援してくださったみなさまのおかげで、こんなに大きな賞をいただくことができました。
竹中
イベント後にアンケートを見たら、比留間さんの発表に感動して涙したと書いていた人もいましたよ。本当に、それくらい感動的なスピーチでした。
比留間
ありがとうございます。
もともと、薬局業界を盛り上げる何かをやりたかった
竹中
薬局アワードと聞くと、薬局向けのコンペティションのように聞こえるかもしれませんが、私としては、まず、地域医療のためにがんばっている薬局のことを、もっと一般の方に知ってもらいたいという気持ちがありました。
広く一般の方に、それぞれの薬局が取り組んでいることを知ってもらい、新しい見方が提供できればと思い、設立した賞なんです。
まずは、最優秀賞に輝いたヒルマ薬局小豆沢店さんについて、少しお話いただきたいと思います。
比留間
私が働くヒルマ薬局の周辺には、ほんの200~300メートルの通り沿いに6軒も薬局があるんです。
そんな中で、一般の方は何をもってかかりつけ薬局を選んでいるのか、実は私自身、よくわかっていないところがあります。
竹中
はい。私も同じ疑問を持っていました。一般的に、多くの患者さんは「薬局はどこも一緒じゃないの?」という感覚だろうと思うんです。
だとしたら、何で差別化すればいいのか。そこで、優れた取り組みを表彰してメディアで広めていったら、薬局の個性や役割をもっと伝えることができるのではないかと考えたんです。
初めての試みでしたが、この「みんなで選ぶ薬局アワード」には予想以上の反響があり、全国から約30もの薬局にエントリーしてもらうことができました。
思いに共感してくださった方がこれほどまでいて、うれしい限りです。
比留間
私は、大学の先輩にこんなイベントがあるよと紹介してもらい、応募を決めたんですね。
もともと自分でも、薬局業界を盛り上げる何かをやりたいなと思っていました。他業種では、居酒屋甲子園だとか、介護甲子園、歯科甲子園など、いろんなグランプリを決める大会がありますよね。ああいうことができたらいいなと思って。
とはいえ、今回応募した本当の動機は、自分たちの取り組みを知ってほしいとかではなく、ちょうどスピーチの勉強をしていたので、力試ししてみたいという挑戦だったんです。
竹中
ヒルマ薬局のPRのためではなかったと(笑)
比留間
そうなんです。ただ、ヒルマ薬局は私で四代目で、この小豆沢でも二代目になります。
自分たちが90年以上根を張っているこの地でやってきた活動を、学術大会のようないわゆるクローズドな場ではなく、一般の方にきちんと発表できたのは、私たちにとってもありがたいことでした。
最大のアピールポイントは93歳の現役薬剤師
竹中
次に、ヒルマ薬局さんの強みと言いますか、たとえば「ウチの薬剤師さんはこういうところがすごい」とか、「他の薬局とは違う取り組みをしている」など、アピール・ポイントを教えてください。
比留間
ヒルマ薬局小豆沢店は、江戸初期に置かれた志村一里塚のそばにあります。
志村一里塚は、中山道の江戸日本橋から数えて三番目の一里塚ということで、一里塚としては現存する数少ない史跡にもなっています。
つまり小豆沢は、昔、中山道を歩いて来た人たちが、ちょっとひと休みする宿場町だったんですね。
そこからの連想で、薬局に「お薬のお宿」というテーマを掲げています。ここで休憩するような気持ちで、立ち寄っていただきたいという思いからです。
薬局を経営していてつくづく思うのは、お客さまによって求めるものがいろいろだということです。
不調について優しく耳を傾けてほしい人、薬の説明をていねいにしてほしい人、とにかくスピーディーに薬をもらいたい人……
そうしたニーズに合わせて対応できるスタッフが揃っているのは、胸を張れる点だと思います。
とにかく薬に詳しいとか、人の心をつかんで離さないコミュニケーションができる、手話ができる、管理栄養士や公認スポーツファーマシストなどプラスαの資格保有者などがいて、バラエティー豊かなんです。
竹中
よりどりみどりですね。
比留間
病気相談、健康相談を超えて、人生相談みたいになっていることも多いです。スタッフの年齢もだいたい30代から60代と幅広いんです。
竹中
じゃあ、どんな患者さまに対しても、その世代ならではの悩みに答えられますね。
比留間
最大のアピール・ポイントは、93歳の現役薬剤師がいることです。
▲ ヒルマ薬局小豆沢店の”エイコ先生”
比留間
私の祖母なんですが、祖母という看板娘(笑)の存在が、ヒルマ薬局を地域のご高齢の方たちに受け入れていただいている土台になっていると思います。
実は高齢で独居生活だったりすると、同世代の人と話す時間があまりないようなんですね。
薬や健康の相談ついでに20〜30分ほど世間話をして帰るお客さまも多いです。話し相手がいる薬局として、お客さまのよりどころになっているのかなと感じてます。
竹中
93歳の薬剤師さんがはつらつと働いてらっしゃる姿を見るだけで、元気をもらえそうです。
比留間
祖母は、お客さまたちからエイコ先生と呼ばれています。
面白いことに、いらっしゃるお客さまはみなさん、最初はエイコ先生を、自分と同世代か年下の薬剤師だと思ってるんですよ。あとになって「え、私よりそんなに年上なの!?」と、本気で驚くみたいです。
だんだん顔なじみになるにつれ、みなさんご自身のおばあちゃんを思い浮かべて、ほっこりされていきますね。
竹中
以前、比留間さんから「祖母と仲はいいけど、よくけんかもするんです」とうかがったこともありますね(笑)
比留間
けんか、よくします(笑)
家族経営なので、ずけずけ言い合う関係はつきものだと思います。いつも薬局から家までタクシーで一緒に帰るんですが、タクシーの中で仲直りするパターンも多いですね。
お客さまの人生に関わっていくのも薬局の役割、という心意気
思いが行動に変わる「ドリームマップ」
竹中
そのほかには、どんな取り組みをされていますか。具体的に教えてください。
比留間
薬局新聞みたいなものを作って健康情報を共有したり、あと、定期的に、フラワーアレンジメント教室や、スタッフやお客さまたちと一緒に「ドリームマップ」を作ってみるなどのイベントを、薬局で行っています。
竹中
薬局アワードのスピーチの中でもお話しされていたことですね?
比留間
私は、薬局ってただお薬を渡すだけではなくて、患者さんの人生に関わっていく場所だと思っているんですね。
それまでの人生にはなかった「薬を1日X回飲む」アクションが加わるわけですから、そういう人生の変化の中に、薬剤師はきちんと関わっていけるのかということを常に考えてしまうんです。
たとえば、フラワーアレンジメント教室のことも、最初は、フラワーアレンジメントの資格を持っている従業員から、副業をしていいかという相談を受けて始めたことです。
副業は認めていないので、ならば薬局で教室をやってみたら、と提案しました。
スタッフがそのフラワーアレンジメントに、ご主人が認知症になられてしまった奥さまをお誘いしたところ、すごく楽しんで帰って行かれた。
奥さまが外に楽しみを見つけてくださっただけでなく、その花を通してご主人とも「何年かぶりで、笑顔で会話ができた」という体験を聞きました。薬局としてそういう関わりができたのはとてもうれしかったです。
竹中
発表の中で、「ドリームマップ」というのも、目を引いていましたね。最初はスタッフと始めたとおっしゃっていました。
とはいえ、そんなにすんなり書けるものかなとも思ったんです。
比留間
そうですね、最初はやっぱり苦労していました。ドリームマップは、文字通り「夢の地図」です。
その地図作りを通して自分の夢を見つけるだけでなく、自分の現在地を認識することやそこに至るための道筋にまず気づいてもらうことが、実は大事なんですね。
夢が明確になってくるので、新たな道に踏み出すスタッフが何人もいました。
竹中
すごいですね。ドリームマップを作ることで、実際の行動にも落とし込めたということですね。
比留間
ぼんやり描いていた「こうだったらいいな」という思いが、具体的になるみたいです。
手話を覚えたいと言っていたスタッフは学校に通い始めましたし、定年になったら瀬戸物や食器を作って売るショップをやりたいというスタッフはもう動き出しています。
自分たちの「やりたい」「楽しい」を大切にしたい
竹中
ヒルマ薬局さんとして、今後、挑戦してみたいそのほかの取り組みなどはありますか?
比留間
そうですね、いま考えているのは、スタッフに管理栄養士がいるので、お客さまの食生活のフォローをしていくとかでしょうか。食育の話や、試食会みたいなこともやってみたいですね。
あとは、公認スポーツファーマシストもいるので、スポーツと関わって何か活躍できないかと考えています。
スポーツファーマシストとは、最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を有する薬剤師です。そういう意味で、アスリートや指導者、つまり子どもから成人まで、広く相談に乗れると思うんです。
なんにせよ、そうしたさまざまなイベントも、自分たちが楽しんでやっていくというのを大切にしたいんですね。お客さまに喜ばれるのも大事なことですが、自分たちが「やりたい」「楽しい」と思うようなものでなければ、続かないと思っているので。
竹中
ちなみに、エントリーしてみてよかったと思ったことは何でしょうか?最優秀賞に選ばれた後のスタッフさんたちの反応はどうでしたか?
比留間
おめでとうと言う嬉しい言葉とともに、心の中では「こういう賞につながるのなら、色々やってきてよかった」という思いを持ってくれていると思います。
そういう意味では、従業員のやる気に小さな火をつけることができたのかなという感覚はあります。
薬局に限らないのかもしれませんが、人に褒められるということがあまりないのが “仕事”です。
でも、こういう舞台に参加して賞をいただけたことで、働く喜びをすごく体感できました。
つい、次へ次へと前ばかり見てしまいがちな自分ですが、エントリーしたことで、自分たちの取り組みをきちんと振り返れる時間を持てた。とてもいい経験でした。
いよいよ後編では、これからの薬局や薬剤師には何が求められていくのか、議論を深めていきたいと思います。
ファーマシストライフ編集部
(取材・文/三浦天紗子、写真/土佐麻理子)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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