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つるさん薬局『薬局は劇場、薬剤師はエンターテイナー あなたに合った病院選びのお手伝い』発表者 鶴原伸尚さん
今回は「みんなで選ぶ 薬局アワード」に選出された6組のうち、つるさん薬局・鶴原伸尚(のぶひさ)さんのプレゼンテーションをご紹介します。
つるさん薬局 鶴原伸尚さんのプレゼンテーション
司会:
それでは、東京都目黒区のつるさん薬局、「薬局は劇場、薬剤師はエンターテイナー あなたに合った病院選びのお手伝い」発表者の鶴原伸尚さん、お願いいたします。
(拍手)
患者さんが聞きたいのは「白衣を脱いだ薬剤師」の話
鶴原:
つるさん薬局の鶴原です。よろしくお願いいたします。
まず、つるさん薬局の名前の由来についてお話ししたいと思います。
つるさん薬局というのは、うちの家内が命名してくれました。薬局をやって10年になるんですけれども、家内に「薬局をやるけど、名前をどうしよう」と、僕がちょっと質問してみたんですね。
そしたら、「あなた、友達に『つるさん』って言われているんだから、つるさん薬局でいいんじゃない?」と言われて。
言われたときはしっくりこなくて、でも2〜3日考えてみると、つるさん薬局という名前は実は日本になかったんですね。それでその名前がすごく気に入って、つるさん薬局という名前でやらせていただいてます。今では家内にとても感謝しております。
本日は「薬局は劇場、薬剤師はエンターテイナー」というサブタイトルですけれども、「劇場」というと、エンターテイナーが必死に演技をして、その演技を見て感動して感激する場、そんなイメージじゃないかなと思います。この感激を味わうために皆さん劇場に足を運ぶんじゃないかなと思うんですね。
一方、エンターテイナーはその劇をして感動を与える人だと言ってしまえばそれまでですけれども、実は僕らが一番感動する時間、場面がありまして。
それはカーテンコールで並んだエンターテイナーが、やり切った顔で汗をかいて、すがすがしい表情で皆に「ありがとう」とお礼をしているとき、あのときが一番素晴らしい姿だな、感激をするという風に思っています。
薬局でも、薬局は劇場で、薬剤師はエンターテイナーのようにやり切った感、そういった仕事をやっていければなという風に思っています。
実際に私が実践していることとして、毎回患者さんと「勝負」をします。
患者さんと話をして、接客をして、笑顔で「ありがとう」と言ってくれれば、私の”勝ち”です。お礼も何も言わずにただ無言で帰っていく、そのときは私の”負け”です。そんな勝負を毎回しています。
これ実に楽しいです。評価は自分で決めるんですけれども(笑)、大体99.9%、自分では勝っていると思います。負けたのは10年間で3回あったかなというような記憶です。
最近では、勝負をする前に患者さんが笑顔で入ってくるので、勝負をする前から勝てているということも増えてきました。
鶴原:
次に「あなたに合った病院選びのお手伝い」ということで、薬局は患者さんのために何ができるのかということを考えました。
薬局を開業する10年以上前、私は100件以上、200件か300件、数え切れないほどの薬局を見てきました。その薬局の薬剤師がどんな対応をしていたか。10年前ですから、今とは違うと思います。
特にその頃は、「この薬は抗生物質で1日3回飲んで、食後に飲まないと胃が荒れますよ、じゃあお気をつけて」と渡すことが非常に多かったんですね。これでは感動は生まれないですよね。感動を生むために、どうするかっていうことを考えました。
実は僕は、白衣を着た薬剤師と白衣を着ていない薬剤師というのがあると思っているんです。白衣を着た薬剤師は、今のような説明をするんです。
ところが、白衣を脱いだら…自分のことは必死に考えますよね。「どこの病院がいいんだろう?」とか「どこの整形外科行こうか」とか、「今の治療で合ってるんだろうか、どう思う?」とか薬剤師同士で話をするんですね。
患者さんが聞きたいのはそんな話だと思うんです。ですので今日、僕も白衣を着ていませんけれども、白衣を脱いだ薬剤師という形で、患者さんに接していければなと思います。
今言ったように、病気になったときに「どこにいる?」「誰に相談する?」、これは結構難しい問題で、ほとんどの方が知人友人に聞いて済ませるんですね。
でも、これを薬局でできたら、すごく嬉しくないですか? 薬局には、実は病院や医院の情報がすごくあるんですよ。そこで、そういったものを提供できればいいなという風に考えました。
あえて面薬局を開業。患者さんに病院や医師の情報を紹介
鶴原:
10年前、薬局を作る前にその実現の条件として、どこに薬局を作るかを考えました。
15年くらい前でしょうか、アメリカのドラッグストア研究で、ドラッグストアをどこに作るべきかという話がありました。
その研究では日々売れる商品の場所、つまり食品スーパーの近くに行くと、人の通りが多いし毎日通いに来るし、来る患者さん、お客さんもほとんど似たような方がいて、実に目に止まるんですね。ですから、僕は食品スーパーの近くで薬局をやることを考えました。
そうすれば、さまざまな処方箋を受けられるようになるんですね。
1対1の病院との処方箋の受け付けをしていると、それこそ忖度が始まります。
忖度をするようになると、病院を選ぶどころか、極端な話、変なことが起きても病院に気を使って何も言えなくなっちゃう。それではまずい。
だから、やはり面で受けられる、いろいろな処方箋を受けられるような薬局を作りたいと思って、その立地を探しました。
立地が決まった後に、次は病院のリサーチをしました。
病院の医師の経験、経歴、検査設備、提携している病院、そんなことを先生に聞きに行きました。
以前、薬局を自分で作ったときには、病院にあいさつに行って「処方箋を出してください」というお願い営業の病院回りをしたんです。
でも、今のつるさん薬局開業の際に、病院回りをするときには、「先生のところ、どんな病院か知りたいので教えてください」と言って行ったんですね。それで訪問をして、どんな風なのかなと見ていきました。
何よりも大切にしたのは、やはりお互いがリスペクトできるかということです。
要するに、値踏みするようなドクターではとても患者さんに紹介はできません。なので、ドクターがお互いに信頼関係を築けるのかということを重点に置いて、ドクターと接するようにしました。
では、そんなに患者さんに病院や医師の情報を紹介する機会はあるの?と思われると思いますけれど、実際は結構あるんです。
それはなぜかというと、さっき言った”白衣を脱いだ薬剤師”ということが関係しています。
白衣を脱いだ薬剤師になると、自分のことのように病気の原因を考えるようになります。
病気の原因を考えると、薬を見るのではなくて、患者さんを見るんです。
そこで、患者さんを見ると、「何の検査が足りない」とか、「どんなことをやってみたら原因が分かるよ」という提案ができるようになります。「検査するならあの病院に行きなさい」あるいは、いろいろな診断を下してもらうために「やっぱり専門医に行かないと駄目でしょう」と。
専門医もいろいろです。例えば皮膚泌尿器科があったとしても、皮膚科がメインなのか泌尿器科がメインなのか、一般の人には分かりません。内科も、内科の何が専門かが分かりません。
だけど、我々薬局ならば知ることができます。それを知って医療機関を紹介することができれば、患者さんにとって、これほど嬉しいことはないはずです。
また、そんな丁寧な説明をすることによって、患者さんからいろいろな質問が来るようになります。
目薬をもらいに来て、「最近頭痛が起きるんだけど、どうしよう」と。「そんなに頻繁に起きるの?」「ええ」「じゃあ1回、安心のためにもCTスキャン撮ってきたら」とか、そんな話が出たりします。
そんな説明をするときに、「つるさん薬局で紹介してもらったよって言ってね」と必ず言います。逆に患者さんに忖度してもらうためです。
そうすると、ドクターのほうも慣れたもので、患者さんに「いつもつるさんにお世話になってます」と患者さんに言ってくれますし、やはり患者さんを大事に扱ってくれます。そんな風になりました。
今では、医師からお中元やお歳暮をもらうようになりました。これを恩師に話したら、「ヨーロッパではよくあることだよ」と言われました。なので、非常に胸を張ってやれる仕事かなと思っています。
ゴールは、薬剤師から発信して 医療・介護のチームでやっていく
鶴原:
また、医師と仲良くなった効果として、医師を想像しながら患者さんに説明ができるんですね。
「あの先生、すぐ年のせいだよと言うね」とか、「薬どれにする?って聞いてくるよ、どっちが医者か分からない」とか、「プライド高いよね、あの先生は」とか、患者さんとそんな話ができるようになります。そうすると、自然と会話が盛り上がります。
また、処方提案もできるようになりました。先生のイメージが湧くので、この先生ならこうしたいだろうな、こうしてくれるだろうな、とか。
ただ、処方提案をするときは、ストレートにはいきません。変化球でいきます。変化球というのは、患者さんにメモを渡して「つるさん薬局でこう言われたけどどう思う?って聞いて」と。そうすることによって実は、薬剤師の提案と、医師の考えという二重の監査が入るんですよ。
僕が医師に直接言ったら、良いと思っていても医師のプライドが高くて駄目になっちゃう場合がある。だからそういう提案の仕方をするようにしています。そんな形で、医師への処方提案ということもやっています。
こんなことを踏まえて「病院選び」と言っていますが、今回の最終ゴールは、医療をチーム医療、そして介護もチーム介護、そういったものを薬剤師から発信して、お互いに見ながらチームでやっていけるという、そういうものを目指してやっていく薬局にしていきたいと思っています。
以上です。どうもありがとうございました。
(拍手)
質疑応答
司会:
ありがとうございました。それでは、審査員の方からコメントを頂戴したいと思います。赤羽根さま、よろしくお願いします。
中外合同法律事務所弁護士・薬剤師 赤羽根 秀宜 氏
赤羽根:
ありがとうございました。すごいですね、10年で3回しか負けてないって、その3回はどんなんだったのか聞いてみたい気もしたんですけども。(会場笑)
取り組みとしては、病院やクリニックの情報を得て、それを提供するだけではなくて、いろいろな観点から、それを元に患者さんとやりとりをしているというところで、いわゆるマンツーマンの薬局ではおそらく実現しないというか。
そういう意味では、あえて面で受けているというのが非常に興味深いなと思って聞かせていただきました。
鶴原さんがそういう勝負を毎回していて、それで紹介をするということは分かったのですが、例えば、他の従業員の方っていらっしゃるんですか。
鶴原:
おります。他のスタッフは、やはり私が患者さんとやっているやりとりを見て、「あの先生だったら、こういうことを言えるわね」というのが、一緒にいるとだんだん身に付いてくる。その経験値を元に話をしていたりします。
赤羽根:
そうすると、これからの課題としては、従業員の方に対しても、同じようなサービスができて、感動を与えられるようなことを取り組むという、そういう理解でよろしいんでしょうか。
鶴原:
はい。
赤羽根:
ありがとうございます。それと紹介の中で、いろいろな紹介の形があるのかなと思って聞きましたけども、例えば、症状を聞いて、こんな症状であれば、どこのクリニックがいいかなと思って紹介する、紹介状とかそういったものを書く場合もあるんですか。
鶴原:
あまり敷居は高くしていないんですね。それをすることによって、逆にスタッフにも負担にもなりますし、それよりは実を取りにいきたいと思っているので、患者さんに「ここの病院が話しやすいよ」とか、患者さんの性格も含めて、そういった風にお話をするようにしています。
赤羽根:
あえて書面では出さないで、こういう症状を訴えてますというのも出さないで、取りあえず行って相談してきてみたいな。
鶴原:
はい。おっしゃる通りです。
赤羽根:
ありがとうございます。あと患者さんに紹介するということになると、病院の情報をアップデートもしていかなきゃいけないと思うんです。
どういう形でアップデートしてるのか、それと情報収集というのはドクターと会うだけなのか、他に何かツールを使っていれば教えていただきたいなと思うんですけど。
鶴原:
まず、ドクターがいる講演会というのあるんですね、メーカーさんがよく主催してくれる。その講演会に行くと、結構ドクターが来ます。その講演会で、ドクターとお話をすればアップデートされます。
それから、もっと良い情報だと私は思っているのは、患者さんからの情報です。患者さんに「どういう対応を受けた?」と聞くとか。
そうすると、やっぱり患者さん同士でも話しているような内容なので、患者さんも興味があることをしゃべってくれるんですね。そういう意味でアップデートしてます。
赤羽根:
分かりました。ありがとうございました。取り組みとして、非常に薬局が中心にいるように思えるので、面白いなと思いましたので、今後も期待しております。
鶴原:
ありがとうございます。
司会:
それでは、もうひと方お願いします。良雪さま、お願いします。
いおうじ応急クリニック 院長 良雪 雅 氏
良雪:
ありがとうございました、良雪です。
最初、医師の専門、人となりを調べ、紹介を行いますということで、ちょっと戦々恐々としながら聞いてたんですけど、我々の理解者になってくれるみたいで、本当にありがたく思ってます。。(会場笑)
お話を伺った感想としては、ちょっと言葉は地味かもしれませんけども、本当に地道な活動をされてきたんだなという印象を持ちました。やっぱりすごく地域に根差したご活動なんですけど、こういう方がいたりこういう薬局があったりすると、地域の医療って変わるよねっていうのは、素直に思いました。
1点だけ質問させてください。伺った話ですと、患者さんが何となく迷ったりしていると、それに対して情報を与えて病院に行ってもらうということですけれども、今、患者さんがどこのクリニックがいいんだろうと調べる手段ってあると思うんですよ。
例えば、インターネット上にも、患者さんによる口コミ情報などが結構あったりして、24時間いつでも患者さん自分のペースで調べられる。
こういった人を使うって話になると、逆にネットではできないことというのがあると思うんですよね。
ネットや他ではできないこと、つるさん薬局さんならではの強みと、これをやることによってどういうメリットが一番あるのかというところ、そして、実際にどういう社会になるようなインパクトがあるのか、そこをもう少しお聞かせいただいてよろしいでしょうか。
鶴原:
まず、ネットの情報というのが非常に曖昧でして、皆さん判断に苦しんでいるという風に思っています。
その判断に苦しむ内容に対して、僕らが情報発信をするためには、すごく信頼が必要で。それを地道にやっていく、地道に活動を重ねたことによってできていると思ってはいるんですけれども。
もう1つ、ネットで情報を見られる世代と見られない世代がいて、やはりネットを見られない世代のほうが圧倒的に病気になっている確率が高い。
そういうことも含めると、やはりおじいちゃんおばあちゃんが来たときに、ネットではない生の情報で、あるいは「隣の誰々さんが言ってたよ」くらいの話になって、地域に根差したお話ができているのかなと思っています。
良雪:
ありがとうございます。こういったご活動というのは、鶴原さんのそのキャラクターだからできるのか、それとも他の薬局も簡単に真似できることなんでしょうか。
鶴原:
自分で言うのもあれですけど、それなりの年齢になってきているので、それなりの年齢の活動ができるようになっていると思いますし。逆に若い方は若い方で、もっと積極的にいろいろなところへ行って、こういう検査設備があるとかそういうものを見に行くこともできるんではないかなと思うので。
私は私で、それ以外の方はそれ以外のやり方ってのはきっとあると思うので、一通りではないと思うんですね。そういうものを期待して、社会に広めてくれればなと思っております。
良雪:
ありがとうございました。
鶴原:
ありがとうございました。
司会:
それでは鶴原さん、ありがとうございました。
薬局は劇場、薬剤師はエンターテイナーということで、どんな例えで、どんなお話なんだろうかと思っておりました。
冒頭にありましたカーテンコールのお礼でやり切った感を例えられてましたけれども、私もよく舞台を見にいくので、まさに薬剤師はそうやって戦っているなということを思いました。ありがとうございます。
(おわり)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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