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薬局・薬剤師にこれから期待する「チカラ」-ファルメディコ 狭間研至先生インタビュー 第3回
第3回では、薬局・薬剤師にこれから期待する「チカラ」をテーマに、薬局3.0。訪問薬物治療のICT化やパートナー制度。薬局・薬剤師による地域医療の取り組みについて。
医師であり、日本在宅薬学会理事長であり、薬局経営者でもある狭間研至先生に、ファーマシストライフ編集部が伺ってきました。
新しい薬局のあり方を問う、「薬局3.0」とは
——第1回、第2回とお話をうかがってきた中で、薬剤師の技能や経験を地域医療の中でどう生かしていくかは喫緊の課題だろうと感じました。
慢性的な医療人材不足は、超高齢化社会を迎えて深刻化するに違いなく、医療人ひとりひとりが個人的な能力の高さを頼みにがんばっても、物理的に破綻しそうな状況が迫ってきています。
そんな中で、新しい診療報酬、介護報酬が始まれば、人材確保を始め、薬局としての経営的な課題はますます大きくなりそうです。
狭間
薬局自身が、きちんと収益を上げ、それを薬剤師さんに還元し、日々やる気を持って働いてもらえるようなシステムを構築していかなくてはいけないと思っています。設備や教育の再投資ができることも含めてです。
どんな会社でも、「採算性」「社員満足」「社会貢献性」は経営の大きな柱だと思いますが、この3つを成り立たせることは容易ではありません。それでも、これまでの保険薬局のあり方なら、採算性は担保できました。かつてはもっと社会貢献性もあったはずです。
しかし、機械化とICT化の進歩で薬というモノやそれにまつわる情報はより簡便に作られ、入手できるようになったため社会貢献度は相対的に下がり、改定によって採算性も危うくなってきています。調剤はマシンでできるようになるかもしれないし、薬剤情報はネットでほとんどわかってしまう。
そんな時代の薬局経営においては、私はまず薬局を、薬剤師さんがやりがいに目覚めるような社会貢献の場にすることにプライオリティーを置くべきだと考えました。
多くの薬剤師さんが現行の調剤薬局業務に面白みを抱いていないという感覚があったので、在宅医療支援にフォーカスするやり方で、薬剤師自身の満足度や仕事のやりがいを引き出そうと考えたわけです。
すると、「ハザマ薬局」で働く薬剤師さんから次々と、「先生、私こんな仕事がしたかったんです」「患者さんがよくなって、『○○先生、ありがとう』と言ってもらえるのがすごくうれしいです」と言われるようになったんです。
——現場で働く薬剤師の自分満足度が上がれば、患者さまの満足度につながる。いい循環ができますよね。
狭間
ただ、私自身が前のめり過ぎたのか、いまにたどり着くまでには苦い経験もあります。
服薬のフォロー業務は、薬学部で学んだ以上の薬理知識もつくし、患者さんにも喜ばれる。だから、やりがいがあるとがんばる志の高い薬剤師さんほど、過労に陥っていくのがジレンマでした。
そもそも、医薬品の発注業務も、在宅医療の契約業務も、患者さまに渡す薬の準備も、掃除や鍵開けといった雑務までを全部薬剤師がやるのは、明らかにオーバーフローなんです。
そこで、「ハザマ薬局」で始めたのが、「パートナー制度」です。これについてはあとでまたお話ししますが、パートナーさんの存在によって、薬剤師さんの過分な負担が軽減できました。
さまざまなトライ・アンド・エラーを繰り返すうちに、この1年半ほどは採算もなんとか合うようになってきました。
業務の見える化や効率化など経営的な努力も地道にやってきましたが、採算性、社員満足度、社会貢献性をバランス良く達成できるシステム作りがやっとできたなあと。このやり方なら、ほかの薬局さんでも真似できるはずです。
——それが、先生が進めていらっしゃる「薬局3.0」ですか?
狭間
はい。私が新しい薬局のあり方を模索し始めた2000年代中頃から、インターネット世界では新しいサービスが台頭してきて「Web2.0」と呼ばれていたので、それにのっとって、「薬局3.0」を提唱しました。
1.0、2.0ってバージョンを表す数字ですよね。私の母がやっていたような町の薬局を第1世代とすると、処方箋に基づいた調剤を薬局の中だけで行ういまの門前調剤薬局のスタイルが第2世代。
第1世代の薬局がなくなっていったように、いずれ第2世代もなくなっていく。第3世代を迎える薬局が求められていく役割は、調剤や薬の配達だけでなく、地域医療との連携だろうと思います。
薬剤師は薬局の外へ飛び出して介護施設や高齢者の居宅などへ訪問。
ときには医師と同行訪問し、服薬指導、配薬支援、医師や医療スタッフ情報共有しながら適切な薬物治療を行うようにする。
「薬局3.0」は、そのような次世代型の薬局・薬剤師を目指していこうという取り組みなのです。それは地域医療における、新しい医療環境の創造につながっていくと思うんですね。
訪問薬物治療のICT化や、パートナー制度の導入が、世界の医療を救う!?
——「ハザマ薬局」がある周辺はどこも、地域医療が活性化しているイメージがあります。
これほど医療サービスレベルの高い地域は、それほどないのではありませんか。
狭間
地域と言えれば良いのですが、まだまだ私たちが直接関わっている業務において、少し先駆けとなるような事例が見え始めたという程度です。しかし、着実に変わりつつあるとは思っています。
私は3年ほど前から病院運営にも携わっていますが、たとえば地域包括ケア病床の診療で薬剤師さんが主体となって動くことで、医師の業務は効率的・効果的になり、その分、医師は急性期の仕事に専念することができます。
高齢になって認知機能が落ちると、自分が飲んでる薬が認識できない、飲み忘れる、気持ちが落ち込むなど、それまでの薬物治療とは違うサポート、人を見るサポートが必要になってくることも忘れてはいけません。それは多少誇大妄想気味かも知れませんが、世界中で起きていくだろう問題なんです。
日本は高齢化が世界に先駆けて進んだために、真っ先に直面しているだけで、今後は、中国、韓国、ヨーロッパ、OECDの各国が同じ問題を抱えることになります。
そのニーズに対して、日本は訪問型薬物治療など、多職種連携で行うチーム医療のシステムや教育プログラムをICT化して輸出していけるようになったらいいと思うんですね。多言語化すれば国際競争力もつきます。
——狭間先生が見据えていらっしゃる未来が、先を行きすぎていて怖いです(笑)。
狭間
多職種連携だとか知財のICT化推進だとかが、いいことだと皆わかっていながら、なかなか進まないのもわかるんですね。クリアすべき課題は山積みですから。うちでは七転八倒してやってみた結果、何とかうまくいきだした。
今度は、そのノウハウを周知化するためのBtoBの事業も始めています。「ハザマ薬局」の薬局業務をICT化したソフトを自社開発していて、それを紹介したり、ほかの薬局さんにBtoBのコンサルティングで入ることもあります。
——狭間先生に見えている薬局・薬剤師の未来のビジョンはすごく明確ですね。ほかにも、いま準備中の事業などはありますか。
狭間
これから始めようとしているのは、パートナーさんの検定制度ですね。
「ハザマ薬局」でパートナーさんと呼んでいる、薬剤師さんのサポートをしてくれる人材を育てるための教育事業です。日本には薬剤師法がありますから、導入に際しては慎重に進めなくてはいけない部分もあるのですが……。
この3月には第1回の検定試験を行いましたが100名を超える受験者がありました。半分ぐらいは当社のスタッフですが、それ以外は、全く別の会社のスタッフの方でした。
——「ハザマ薬局」の「パートナー制度」というのは、どういうものでしょうか。
狭間
27項目130工程ぐらいある薬剤師の業務を全部洗い出し、合法的な形で薬剤師さんの仕事と薬剤師ではなくてもいい業務を分類したんですね。
薬剤師でなくてもいい業務はパートナーさんと呼ばれるアシスタントさんに任せる。その分、薬剤師が患者さんの状態を長くサポートできる気力と体力と時間とを確保する。
薬剤師が対物的な業務ばかりではなく、対人的な業務に携われる環境づくりを進めるために取り入れました。
検定等については、監督官庁を含めて関係各署の方々とざっくばらんに話をしながら進めてきました。
総じて言えることは、単に、薬局の経営効率上げるとか、薬剤師不足を補うという目的ではなく、多岐にわたる薬剤師業務の中で、薬剤師には薬剤師でしかできない仕事をしてもらう。薬剤師が患者さんの状態を見に行って活動できるしくみを地域医療に生かしたいのです。
期待がかかる、薬局・薬剤師による地域医療の取り組み
——狭間先生はすごく先を見ていらして、日本の医療の現状を変えたいというお気持ちも強い方だと思うんですけれども、そんな狭間先生が目標にしてきた方、尊敬されてる方、あの人の背中を見てきて僕はこうなったみたいな方はいらっしゃるんですか。
狭間
僕は、盛和塾の塾生だったころがあって、塾長の稲盛和夫氏の「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉には影響を受けていると思います。
そして、それ以上に、大阪大学医学部の旧第一外科での経験は大きかったかもしれません。そこは、脳死の移植を再開に向けて尽力し、法的に脳死が人の死では無かった時代から、今の移植医療が臨床応用されている時代を見据えて、法律や制度などの整備も含めて取り組んできた医局です。
不可能を可能にするために、大の大人が必死になって取り組む先輩たちの姿は、当時30代前半ぐらいだった私は大いに刺激を受けました。
——そんなの不可能、できない、と言われがちな硬直した制度に、鋭いメスを入れて取り除いていくみたいな仕事に、いっそう情熱がわく。狭間先生にはそんな印象があります。
狭間
その根底にあるのは、やはり困っている患者さまを助けたいという気持ちですね。それは私に限らず、医療人共通の思いです。
医師や看護師、薬剤師、介護士、薬局の社長や薬学教育に携わる先生、みな患者さんをよくしたいと思っていますから、あと必要なのは、人と人とをつなげるしくみです。
——医療崩壊など暗いニュースばかりが大きくなっていますが、狭間先生のように、柔軟な姿勢でいろんな職種の人たちが協力しあって患者さまに向き合えば、もう少し医療の状況よりはよくなるのではないかという希望が見えました。
最後に、これから薬剤師を目指す学生さん、あるいはまだ何も活躍できていないけど、何か患者さまのために貢献したいと思っている薬剤師さんたちに、何かメッセージいただけますか。
狭間
薬剤師さん、薬学生さんに対して、いつも私が思うのは、現状だけを見てあきらめるなと。
多くの学生さんは、実習に行って心が折れてるんです。「何?出すだけかいな」とか、「こんな仕事しかないの?」とか。
でも、世の中には、探せばうちだけじゃなくて、結構面白い動きをしている人が出だしているので今回の改定をきっかけに、医療のあり方は大きく変わっていくはずです。
どうなるかわからないというなら、まず自分に力をつけることです。薬剤師の力を発揮する可能性はますます広がると思うので、薬学的な専門性を身につけて、出番に備えてほしいですね。
ファーマシストライフ編集部 (取材・文/三浦天紗子、写真/楠本涼)
1969年、大阪府生まれ。 「ファルメディコ株式会社」代表取締役社長、一般社団法人「薬剤師あゆみの会」理事長、一般社団法人「日本在宅薬学会」理事長ほかを歴任。 '95年、大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。 2003年より家業を引き継ぎ、「有限会社ヒューマンメンテナンスサポート」社長に就任。04年にファルメディコ株式会社へ組織変更とともに社名変更。大阪各地に「ハザマ薬局」を展開。現在7店舗。大学での薬学教育にも携わる。 『薬局マネジメント3.0』(評言社)、『薬局が変われば地域医療が変わる』(じほう)、『薬剤師のためのバイタルサイン』(南山堂)、『薬局3.0』(薬事日報社)、『外科医 薬局に帰る』(薬局新聞社)など著書多数。 ファルメディコ株式会社 HP: http://www.pharmedico.com/index.html
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