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「みんなで選ぶ 薬局アワード」で特別審査員賞を受賞した エール薬局鴨居店って、どんな薬局?
2019年5月に開催された第3回「みんなで選ぶ 薬局アワード」で、特別審査員賞を受賞した、エール薬局鴨居店。
「薬局版こどもミュージアムプロジェクトがつくる優しい地域」というテーマで、医療費高騰が大きな社会課題となっている中、薬の飲み忘れによる症状悪化に注目し、子どもたちが描いた「お薬しっかり飲んでね」をテーマにした絵を薬袋に印刷することで、薬の飲み忘れを防いでいくという取り組みを紹介していただきました。
そんな エール薬局鴨居店の魅力について、プレゼンターの松岡亮太郎さんにお話を伺いました。
まつおか・りょうたろう 株式会社スカイファルマ 取締役、薬剤師。1985年生まれ、千葉県出身。慶応義塾大学大学院薬学研究科修士課程卒。東京、神奈川での調剤薬局事業、薬剤師派遣事業、コンサルティング事業を展開。2018年7月に開局したエール薬局鴨居店は、保険調剤や医薬品の販売、健康相談や施設及び個人在宅介護支援などを通して、地域医療に貢献している。
すぐに取り組める「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」の始め方
——特別審査員賞の受賞、おめでとうございます。まずは、エール薬局鴨居店について教えていただけますでしょうか。
松岡:
エール薬局鴨居店は2018年7月に開局いたしました。それまでに開局した他店舗は内科や整形外科の処方箋応需が主でしたが、鴨居店は小児の処方箋をメインで応需する立地での薬局です。
松岡:
当薬局は、親子連れやご高齢の方が多く、スピーディーな調剤と安心してくつろげる待合室には特にこだわっています。
薬のお渡しについては、お子さんやご高齢の方は長く待つのも辛いと思いますし、親御さんはお子さんの薬のことを詳しく聞きたい方も多いため、調剤時間をできるだけ短くし、投薬の時間をなるべく長くとれるよう心掛けて業務を行っています。
具体的には予製を豊富に準備したり必要な機器の導入を積極的に行っております。
待合室については、安全面を考慮し、椅子の手すりを無くしました。代わりに一人分ずつ座る椅子の高さを変更することで、ご高齢の方が立ち上がる際の手すり代わりにもなるよう設計しています。
——「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」以外にも、様々なイベントを行われていたのですね。今回受賞した「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」について、取り組みを始めるきっかけは何だったのでしょうか。
松岡:
もともとエール薬局鴨居店の開局にあたり、何か他の薬局がやっていない取り組みを行いたいと思っていたんです。
開局後は、近隣にお住まいの方々が参加できるイベントとして、「こども調剤体験」、「科学の力を利用したシャーベット作り」、「ロコモティブシンドローム予防相談会」など、様々なイベントを企画、実施しました。
そうした中で「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」は、他業種のかたとの交流により生まれました。
松岡:
弊社代表の渡辺は他業種の経営者とも交流が広く、ある時、大阪の宮田運輸さんがトラックに子どもの絵をラッピングする取り組みを主なっていることを知りました。
この取り組みを薬局にも応用できないかと話し合った結果、薬局版こどもミュージアムプロジェクトの企画が生まれたんです。
この企画を広く世の中に知っていただきたい、という思いから薬局アワードへのエントリーに至りました。
——他業種との交流から得たアイデアを薬局に応用されたのですね。今回、実際に薬局アワードに参加してみて、どうでしたか。
松岡:
薬局アワードに参加して、最も良かったことは薬局版こどもミュージアムプロジェクトを一般の方も含め多くの方々にご紹介できたことです。
それと同時に、薬局アワードの代表薬局の取り組みを、選出された薬局の代表者の方々からより深く知れる機会をいただけたことも良かったですね。どの取り組みも興味深く、勉強になりました。
また、全国にはこんなにも面白い取り組みを行っている薬局がたくさんあるということを改めて実感し、自身のモチベーションが向上しました。
——特別審査員賞を受賞してみて、どうでしたか。
松岡:
今回の受賞に関して、一緒に取り組んだスタッフの皆さんからも喜びの声を頂き、スタッフ全員の士気も上がったと感じております。
いただいた賞状と盾を薬局に飾らせていただいておりますが、患者様もそれを見て「いい取り組みですよね」と声をかけて下さいます。改めてそうしたお言葉を頂き、本当に嬉しく思います。
今回の取り組みで、特に評価いただけたポイントは2つあると考えています。
1つ目は、薬の飲み忘れをなくすための具体的な方法であると感じていただけたことではないでしょうか。
薬を飲み忘れないようにすることは患者様個々の意識の問題であり、この意識を変えることは難しい…。この問題に対し、「人は自分の大切な人のために何かをする、その時に意識が芽生える」ということに気づき、応用できたのだと思います。
2つ目は、今回の取り組みは他のどの薬局でもすぐに取り組めるアイデアであることだと思います。そうした再現性の高さを評価していただけたのではないかと思っております。
——再現性の高さといえば、「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」については、発表の際にも、どの薬局でもすぐに取り組めるアイデアと紹介されていましたね。他の薬局でやるとしたら、具体的にどのように取り組めばよいのでしょう。
松岡:
実際に発表後にいくつかの薬局から「具体的にどう取り組んでいるのか教えてほしい」というお声を頂きました。
できる限りスピーディーにお絵かき付き薬袋を用意できるよう、お絵かきを頂いたお子さんのリストや、薬袋準備のマニュアル化などを行い、スムーズな業務を行うための事前準備を徹底しております。
以下に「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」の手順を詳しく紹介いたします。このような流れで行っておりますので、ご参考にしていただけたらと思います。
エール薬局鴨居店 松岡さんに聞く
<薬局版こどもミュージアムプロジェクト>の手順
- 来局されたこども達にお絵描き用紙を渡し、次回来局時までに自由に絵を描いてきてもらう。
(小学生以上のこどもには目的を説明し、「お薬のんでね」のコメントを書いてもらう) - 次回来局時にお絵かきを受け取り、薬局内に掲示する。
- お絵描きを描いてくれたこどもとその家族を紐づけする。
レセコンの患者伝言メモに、「こどもミュージアムプロジェクト参加」と記入し、以後処方箋受け付けたときに分かるようにしておく。
(予めお絵描き画像をスキャンし薬袋に印刷しておいたものを用意しておく) - 次回来局の際、本人・両親・祖父母の薬袋裏面にお絵描きを印刷できる旨を伝える。
(用意しておいたお絵描き印刷済み薬袋を実際に手に取ってもらう) - 希望された方の薬袋裏面にお絵描きを印刷する。
お絵描き付き薬袋でお薬を渡す際、「お子さん(お孫さん)のためにもお薬忘れずに服用してください」とお声掛けをする。 - 次回来局時にアドヒアランスやその他感想をうかがう。
薬局は他業種とも関わり合いながら、時代のニーズに合った進化を
——松岡さんは、薬剤師として働く上でどんなことを大切にしているのでしょう。
松岡:
弊社の企業理念は「我々は医療を通じて、地域社会の幸福度を向上することを基本使命とする」でして、この思いのもと働いています。
私個人としては、具体的に、薬剤師として薬をお渡しするだけでなく、時には積極的に相談にのったりして、患者様により健康になってもらいたいという思いで働いています。
調剤業務に追われ、なかなか時間の余裕がないと感じることはありますし、同じように感じている薬剤師もたくさんいると思います。
自分自身も、時にはストレスを抱え心に余裕が持てなくなってしまう時もあります。それでも仕事で一番接するのは体調を崩している患者様です。
ですので、まず何よりも大切にしているのは、薬剤師であり一医療人として、人にやさしく接する、相手の気持ちを考える です。当たり前のことであり、精神論になってしまうかもしれませんが、これが一番のこだわりです。
松岡:
また私自身、薬局アワードのコンセプトである「薬局ってどこも一緒じゃないの?」を覆したいという思いがあります。
何か新しくできることはないかとか、何を新しく取り組めば現状が改善できるのか、あるいは何をやめれば改善できるのかということを、日々仕事をしている中で、常に考えること。このように考動する(行動ではなく)ということも、心がけていますね。
——素晴らしいお考えですね。では最後に…今後の薬局や薬剤師のあり方については、どのようにお考えでしょうか。
今後の時代の流れを考えると、薬局は調剤報酬だけに頼る形態では未来は明るくありません。薬局は変わっていく必要があります。
今回薬局アワードで発表したどの薬局も、薬局として今まで以上に何ができるのか、どう社会の役に立てるのかを考えて様々な創意工夫を示されています。
私自身、もっと薬局ができることを探し、他業種とも関わり合いながら時代のニーズに合った薬局の進化を望んでいます。
薬剤師においてもAIの発展に伴い調剤業務が減ることは明らかです。
ただの薬剤師ではなく、薬剤師の職能に絡めたスキルをもつ、別の顔(スキル)をもつ人材を目指していくべきではないでしょうか。
——「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」が今後どのように進化していくのか、ますます楽しみですね。
松岡:
薬局アワードの質疑応答の際に、特別審査員のNPO法人ガンノート代表理事の岸田さんから、「お子さんのいない方向けに何か取り組めることはないでしょうか?」とのご質問をいただきました。
その場では明確な答えは出せませんでしたが、その後同じく特別審査員の株式会社マザーレンカ代表取締役の池田さんや多くの方々から「ペットの写真はどうか?」「知り合いの子供の絵でもいいのではないか?」などのご意見も頂きました。
こうした皆様からの声を参考に、薬局版こどもミュージアムプロジェクトをより良いものにしていきたいです。
今後は、当薬局が所属する緑区薬剤師会などでも発表を行い、近隣の薬局さんなどにもより広く知っていただきたい、という思いがあります。同時に、当薬局のそばには地域ケアプラザもありますので、そういったところとも今まで以上に積極的に関わっていきたいですね。
「薬局版こどもミュージアムプロジェクト」を始めとして、薬局でのイベントを通じて徐々に地域の皆様との関りが深まっていることを実感しています。
新たなアイデアを考え、次回の第4回 薬局アワードで、また何か発信できたらと思ってます。
ファーマシストライフ編集部
(写真提供:株式会社スカイファルマ)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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