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キムラ薬局『薬局をハブにしてつながるネットワーク進化版』発表者 中島美紀さん
今回は「みんなで選ぶ 薬局アワード」に選出された6組のうち、大分県別府市のキムラ薬局・中島美紀さんのプレゼンテーションをご紹介します。
キムラ薬局 中島美紀さんのプレゼンテーション
コンビニより薬局が多い温泉都市
司会:
大分県にありますキムラ薬局、「薬局をハブにしてつながるネットワーク進化版」発表者の中島美紀さん、お願いいたします。
(拍手)
中島:
キムラ薬局の薬剤師の中島です。よろしくお願いします。
私は大分県別府市から来ました。大分県は、ポスターを見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、シンフロ(大分県が2015年に公開した温泉PR動画)でちょっと有名になりました。
中島:
別府市は人口11万9,000人の温泉都市です。最近はこういったポスターを、空港や駅で、もしかしたらお見かけになる方もいらっしゃるかもしれないです。右は、ご当地キャラのべっぴょんです。
別府市には保険薬局が70軒ほどあります。これは全国平均の44.6軒より多いです。それからコンビニの数は、田舎ですが56軒ございます。ということで、まさにコンビニより薬局の数が多いのが別府市の特徴となっております。
私の働いている場所は、建物の下の階が薬局で、上の階が私の実家になっています。そのため、朝8時から夜8時までほとんどここにいます。
薬局の目の前には230床の病院があって、1日の処方箋の平均枚数は140枚です。それから1つの医療機関の処方箋を受け付ける集中率については、大体半分くらいが1つの医療機関で占められています。
昨年も似たような内容でちょっとお話しさせていただきましたが、がん医療ネットワークナビゲーター、認知症ケア専門士を中心としていろいろやっております。こういったことに取り組んだ結果、薬局をハブにつながるネットワークができました、ということを昨年はお話しさせていただきました。
中島:
その時に課題もご指摘いただきました。外に向けての活動がちょっと弱いんじゃないか、いろいろ取り組み過ぎじゃないのか、そして「薬剤師の存在感は?」と。
それを受けてこの1年、その後どうなったかということを、お話しさせていただこうと思います。
薬局で「がん医療」がつながる、ひろがる
中島:
蒔いた種が思わぬところで芽を出して、広がっています。
まず、がん医療ネットワークナビゲーターです。患者さんのご自宅にお薬や介護用品をお届けすることがあるんですけれども、そこからふとしたことで、がんに関するお悩みを拾い出して、がんサロンに紹介したり、一緒にがんサロンに行ったりします。
中島:
がん治療に関する疑問や治療法に関するお悩みは、がん医療ネットワークのシニアナビゲーターである薬剤師へつなぐということをしています。そこからがん相談室や外来化学療法室、医師、地域包括支援センター、ぴあサポーターなど、さまざまなところへつないでいます。
もう一度、病院から家へ帰りたい患者さんもいらっしゃいます。
地域の特性上、病院から1時間以上離れたところにお住まいの方が多いです。当薬局も、そういったところにお伺いすることはあるのですが、患者さんがもう一度どうしても家に帰りたいという場合、輸液や医療材料が必要になることがあります。その時に、医療センターや地域のがんの拠点病院から当薬局に依頼があり、他に近くの薬局にないかという風な相談を受けていうます。その中で、地区の薬剤師会のネットワークを生かして、経験はないけれども「やる、お届けする」と手を挙げてくれる薬局もございます。
その中で、私たちは輸液の処方箋の書き方、取り扱い、医療材料をどこから仕入れたら良いのか、どんなものがあるのかなど、私たちが持っている全ての知識を提供しています。そして、患者さんは無事に帰宅しご自宅で過ごすことができます。こうして、他の医療機関や専門家だけではなく、同じ薬局同士でもつながって広がっています。
中島:
また今年、別府市ではがん患者さん、がんサバイバーさんたちを中心としたがんサロンの立ち上げがありました。
去年から私たちキムラ薬局も関わらせていただいて、市内の訪問看護ステーションやぴあサポーター、がん拠点病院のソーシャルワーカーさんたちと一緒に、また地域の他の薬局の薬剤師さんと一緒にサポーターとして参加しています。
今は若いサバイバーさんたちと相談して、「夜がんサロン」をやるのもいいのではないかと話しています。こうしていろいろなところに広がっています。
中島:
写真の女性は認知症ケア専門士であり、がん医療ネットワークナビゲーターです。施設に入居される患者さんに薬剤師が訪問する時は契約書が要るのですが、その契約を彼女たちが行っています。
その際にお話しをする中で、施設入居される患者さんのご家族の中に、他にもがん患者さんがいるといったことも分かることがあり、そちらもがんサロンに紹介したりしています。
また、気になる患者さんのお家を訪問したりして、お薬をきちんと飲めているか、何か困っていることはないか拾い上げ、これは認知症ケア専門士の働きなんですけれども、薬剤師や医療ソーシャルワーカー、本当にいろいろなところへつないでいます。
立ち寄りスポットとしての薬局の役割
中島:
そして、つながって広がった患者さんや地域の人たちは、また薬局に戻ってきます。
「がんになったんや」とか、介護施設はどこがいいのか、あとは頭痛がするけどどの病院がいいのか、それから、化学療法の帰りに「ちょっとお茶を飲ませて」ですとか、処方箋を持っていない方の来局も少しずつですが増えています。
中島:
食事について相談したい、検査値を見てほしい…、こういった要望に対し、がんサポートグループの方が当薬局のサロン「ガーベラ」を、薬局ではなく立ち寄りスポットとして紹介してくださっています。
写真の女性は、管理栄養士のイワモトさんです。ファンが増えて、彼女がいる時間を狙って来られる方が結構いらっしゃいます。
薬局のスタッフは、それぞれのスキルや得意分野を生かして地域に出ています。
あるスタッフはシナプソロジー、事務の主任はコンチネンスケアで、別のスタッフは仕事をしながらケアマネージャーの資格を取りました。また、別のスタッフは笑いヨガで地域の方に提供しようとしています。
さらに、当薬局が入っている施設の施設長さんは、相談員だったのですが、うちのファンでして、今年からうち働いています。現在、彼はもともとの介護職員、介護系のお仕事の経験を生かして、いろんな施設さんやケアマネさんなどいろいろなところに営業をしたり、困り事などのお話を伺ったりしています。
中島:
うちには1人しか薬剤師がいない薬局もあります。写真の彼女は事務さんなんですけれども、薬剤師が気になった場合は、患者さんの了承を得てお伺いしてレポートを作成しています。右側の写真は、彼女が書いたレポートです。これを基に、薬剤師が医師に相談しにいったりしています。それぞれのスタッフが各々にハブを持って、地域に出かけていきます。
薬剤師も地域へ出かけていく
中島:
薬剤師も負けていません。オーナーが白衣が嫌いで女性陣はいつもエプロンを着ているのですが、今日は、私はちょっと勝負白衣です。
(会場笑)
中島:
がん医療ネットワークナビゲーターとして、もっともっと活動を広げていくために、地域に出たりもしています。本来の仕事である薬剤師として、お家を訪問したり、公民館に行ったり老人会に行ったり、病院に行ってがんの会議に出ることもあります。
それから、相談室の医療連携室の看護師さんやソーシャルの方と、どの薬局がいいのか、またどうやってお薬持っていこうかという相談もしてます。調整室もあるので、輸液を調整して持っていくこともあります。
また、お子さん方に薬剤師の仕事を知ってもらう活動もやっています。
中島:
他には、愛のメッセージということで、私たち薬剤師が一言、患者さんに向けておくすり手帳にメッセージを書くようにしています。内容はもう薬剤師によってさまざまですけれども、これを楽しみにしてくださる患者さんもいらっしゃいます。
中島:
これは去年出したスライドです。こうやって今後も広げていきたいなと思っていたのですが、今、もっともっとさまざまなところに広がって、そして最終的に薬局に戻ってくれる方が本当に多いです。
私たちの原動力は、患者さんであり、地域の、全国の薬局や、薬剤師たちであり、薬局のスタッフみんなです。
私の趣味は、休日にいろんなところに出かけることなんですけれども、そこで得た知識や面白そうなこと、出会った仲間たちからいただいたエネルギーを、月曜日に薬局のスタッフに伝えています。
全国には素晴らしい取り組みをしている薬局がたくさんあります。私は薬局という場が大好きですし、薬剤師の仕事が本当に大好きです。お近くにもそんな薬局が必ずあると思いますので、あなたのかかりつけ薬局をぜひ見つけてください。以上です。ご清聴ありがとうございました。
(拍手)
質疑応答
司会:
ありがとうございました。それでは、審査員の方からコメントを頂戴したいと思います。岡崎さま、お願いいたします。
一般社団法人スマートヘルスケア協会 代表理事、東京大学大学院薬学系研究科 医薬政策学講座 特任研究員 岡崎 光洋 氏
岡崎:
中島先生、お疲れ様でした。去年からのパワーアップ度合いがすごいですね。確かに去年も随分たくさんのことをされているというお話があったかもしれませんけども、最初のシンフロのあの写真しか思い出せないんですが(笑)。
とてもいろいろやっていると言いながらも、最後にふと思ったのは、実はすごく王道なんだなということ。
どれもこれもやっているようで、期待されているようで、でもやっぱり結果的には処方せん調剤しかやっていない薬局も随分多い中で、あそこまでのことをしているんですね。
決して目立って見える化していないのかもしれないんですけども、そもそも(薬局は)目立つための仕事しているわけではないので、裏で支えるという意味では素晴らしいと思いました。
最近東京の豊洲にできたマギーズ東京(※がん患者や家族が相談できる施設)という、看護師の秋山先生という方が思いを持って何年もかけてつくってきた、誰もが立ち寄れるスペースを思い出しました。やっぱりふと立ち寄れる場所っていうのは大事。ただ何か場所があったり物があったり人がいるだけでは、やっぱりふと立ち寄るということは無理だと思うんですよね。
これは感想になっちゃうんですが、中島先生の薬局は、それぞれのスタッフが地域でのそれぞれの専門性を理解されているんですよね。だから直接患者さんが来なくても、誰かを一時的のキーにして、「それだったらキムラ薬局の中島先生に聞いてみたら」って、たぶん全部がそこにつながってくるんだと思います。そういう意味では、もうハブというか、ある意味どの穴から入っても必ず先生のところに来るっていう、そういう意味でものすごく感動しました。
ちょっと1つ質問ですが、逆を言うと、それだけ地域に顔が効くスタッフさんたちが、それぞれの専門性を持って顔をつなげてくるっていうのが、1人ひとりがやらなきゃいけないことなんだと思うんですけど、そこは会社の、社風なんですか?
中島:
ありがとうございます。社風というか、去年もお話しさせていただいたのですが、そうするといろいろ広がっていくんですね。私も出先から帰って「こんなことがあったよ」と話をすると、なぜか他のスタッフに広がっていって。
各自が専門性を持っているからどうこうではないのですが、たぶんスタッフ本人たちの自信などによって、相談受けた時の受け入れ方もちょっと大きくなっているのだと思うんですけど(笑)。
スタッフ間で思いを話していると「じゃあ私もこれをやってみたい」とか、スタッフのほうから「この勉強会、私も一緒について行きたいです」という話を、本当ここ2〜3年すごくよくするので、全体的になんとなくスキルアップにはつながっているのかなと思います。
岡崎:
ありがとうございました。ぜひこれからも、皆さんがそんな風に動けるように、頑張ってやれたらいいなと思います。ありがとうございます。
司会:
ありがとうございました。それではもうひと方、鈴木信行さま、お願いします。
患医ねっと 代表 鈴木 信行 氏
鈴木:
鈴木信行です。確か去年オーディエンス賞をお取りになりましたよね?
中島:
はい。
鈴木:
私が壇上で賞をお渡しした記憶があって、それを懐かしく思い出しながら発表を聞かせていただきました。私は患者の立場ということで、こういう席に座らせていただいていますけれども、まさに患者から見た理想形。地域に出ていく姿、またスタッフを巻き込む力、また薬局が単に薬を出すではなく、さまざまなところで活躍されてるご様子を拝聴し、まさにこれが理想形だなと思います。
1つ興味としては、やはりどんどん広がっていく中で、中島さん個人として次のステップ、目標、もし来年この場に来て発表するとしたら、どんな内容になるだろうかと、ご自身の目標みたいなものがあれば、お聞かせいただきたいです。
中島:
ありがとうございます。次は、私と一緒に働いてくれている若い薬剤師の人たちに、同じようにというか、私よりもっともっと外に出ていってほしいなと。私は守りに入るというか地域に戻って、若い先生たちが前に出て。パワーを持つ若い先生がおそらく全国にはいっぱいいらっしゃいますので、それをつなげていってほしいなと思っています。
鈴木:
若い薬剤師の方々に繋げていただき、来年もキムラ薬局さんが登壇されることを期待しております。今後ともよろしくお願いいたします。
中島:
ありがとうございます。
(拍手)
司会:
それでは中島さま、ありがとうございました。前回の発表で出てきた課題というのを踏まえられてということで、まさに進化版の発表だったと思います。
(おわり)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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