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エール薬局鴨居店 『薬局版こどもミュージアムプロジェクトがつくる優しい地域』 発表者 松岡亮太郎さん

今回は「第3回 みんなで選ぶ 薬局アワード」で特別審査員賞を受賞した、エール薬局鴨居店(株式会社スカイファルマ)松岡亮太郎さんのプレゼンテーションをご紹介します。

エール薬局鴨居店(株式会社スカイファルマ)松岡亮太郎さんのプレゼンテーション

「薬の飲み忘れ」が生み出す2つの問題

松岡:

エール薬局鴨居店の松岡亮太郎と申します。よろしくお願いいたします。

皆さん、薬局は、お薬をお渡しするだけの場ではございません。本日の取り組みの目的は2点ございます。

松岡:

1点目は、患者さまにより健康になっていただきたいという思い、2点目は、今問題になっています医療費の高騰という社会問題、こちらの解決に少しでも貢献できればといった思いで取り組んだものとなっております。

タイトルは『薬局版こどもミュージアムプロジェクトがつくる優しい地域』、何を行って、どういったメリットがあるのかをご紹介させていただきます。

松岡:

初めはこちら、55.6という数字です。薬に関わる「ある割合」なのですが、55.6%が何かちょっと想像していただけないでしょうか。

松岡:

55.6%、これは「今までに、お薬を飲み忘れたことはございませんか」と伺ったときに、「あります」と答えた方の割合です。

実に半数以上の方が、お薬の飲み忘れの経験があると回答されています。

薬剤師はお薬をお渡しするときに、「今、飲み忘れとかはございませんか。余っている薬はございませんか」、こうお声掛けをしています。

皆さんはお薬を受け取るときに、このように言われたことがあるかと思います。にもかかわらず、半数以上は飲み忘れの経験がある、これは大きな問題ではないかと考えております。

松岡:

そして、こちらは冒頭でお話しした国民医療費。こちらと、先ほどのお薬の飲み忘れ、この2点は深く関わっております。

1点目としまして、お薬を飲み忘れると、余ったお薬が家で無駄になってしまう。そういった患者さんが今、たくさんいらっしゃいます。

ご自宅にたくさんお薬が余っちゃって困っているという、私もそういうテレビの特集を見たことがあるんですけれども、そちらがまず国民医療費の増大と、飲み忘れの1点目の問題の関係でございます。

もう1点、お薬を飲み忘れると、患者さんの症状は悪くなってしまいます。例えば、血圧の薬を毎日飲まなければならない患者さんがいらっしゃって、しかし薬を飲めていない。

そうすると、だんだん心臓血管に負担がかかることで、お薬がさらに増えてしまったりですとか、中には手術をしなくてはいけない、なんていう方もいらっしゃる。

つまり、薬の飲み忘れは症状の悪化を招く。症状の悪化を招くことで、より医療費がかかってしまう、こちらが大きな問題になっております。

そこで、お薬の飲み忘れを少しでも減らそうということで、以前から行われている一般的な取り組みを簡単に紹介させていただきます。

松岡:

1点目は一包化、お薬1回に飲む量を1つの袋に詰めるという方法です。こちらで飲まれている方はたくさんいらっしゃるかと思います。

真ん中の配合錠というお薬は、簡単に申し上げると2つの粒が1つに合わさって1粒になっているお薬です。飲む数が減るので、飲み忘れ、うまく飲めないといったリスクを減らすといった取り組みです。

最後に右側、長く効果が続くようなお薬の設計が、今、作られているところです。

例えば、今まで朝夕2回飲まなければならなかった薬が、朝だけ飲めば大丈夫ですよと。こちらも飲むタイミングが減ることで、お薬の飲み忘れが減らせるという取り組みです。

ただ、こうした取り組みは、以前からもうずっと行われています。にもかかわらず、半数以上は飲み忘れが起きてしまっています。

他業種から得た改善のヒント

松岡:

では、飲み忘れを改善するには、患者さまのお薬の飲みやすさを改善するだけでは足りないと。そこで、何が大事なのかと考えました。

松岡:

やはり、患者さま1人ひとりの意識の問題、言葉でいうと簡単なんですけれども、この意識を変えるということを、何か具体的な方法を使って行わなければいけない、と考えました。

そしてそのヒントとなった、他業種のお話を少しさせていただきます。宮田運輸さんという、大阪府にあります運送業者さんです。

こちらの運送業者さんは、何とかして危険運転や交通事故を少しでもなくしたいという思いから、ある取り組みを行われました。

松岡:

ドライバーさんの運転しているトラックを、お子さんが描いた絵でラッピングするという取り組みです。

皆さんは、もしこういった車が前を走っていたとしたら、こちらも安全に運転しなきゃ、あるいは安全に運転してほしいなと、思うのではないでしょうか。

宮田運輸さんのお話を伺ったところ、実際にこの取り組みを行ったことで、まずドライバーさんの空吹かしとか危険運転とかが、すごく激減したと。

また大事なのが、今、問題になっているあおり運転、こちらも被害が激減したというお話を伺いました。

松岡:

こちらは拡大した写真です。
「無事に帰ってきてね」とか「無事故で」と、こういうお子さんの絵と言葉で、運転している方も、しっかり気を付けて運転しなきゃという意識が芽生えたという結果を伺っております。

こういった人の優しさやそういった思いには、意識を変える力がある。この話に非常に感銘を受けまして、これを薬局にも応用できないかと考えたのが、うちの取り組みでございます。

子どもの絵でアドヒアランスが向上

松岡:

こちらが、エール薬局鴨居店の「こどもミュージアムプロジェクト」でございます。

松岡:

患者さまが、お子さんとご家族でうちの薬局に来られた際に、お子さまにはお絵描き用の用紙をお渡ししております。

そして、次回来たときですとか、場合によってはお薬を待っている間などに、お子さんに絵を描いていただいて、また後日でもいいので絵を持ってきていただきます。

お子さんの絵は、薬局内の掲示スペースをつくって掲示させていただいております。

松岡:

そして、ここからがポイントです。それ以降に、その絵を描いたお子さんのお父さん、お母さまですとか、おじいさま、おばあさまが薬局に来られた際に、そこで出たお薬の薬袋(やくたい)、薬を入れる紙の袋の裏面に、描いていただいた絵を印刷する、こういったサービスを行っております。

松岡:

こちら、よく見ると「子どもの励ましの絵で乗り切れます」と書いてあります。
一番左側は、お子さんが薬局で絵を描いてくださっている写真です。

真ん中を一番見ていただきたいんですけれども、お子さんの絵のコメントのところに「お薬ちゃんと飲んでね」と、書いていただいています。

この薬袋、薬の紙袋をもらった患者さまは、「お薬をしっかり飲もうという意識が芽生えた」ですとか、中には「この紙の袋は捨てられないよ」という方までいらっしゃいました。

そして、結果についてご紹介させていただきます。

松岡:

週に1回くらい飲み忘れてしまうという方が非常に多く、7日のうち6日は飲めて1日飲めない。
そうすると、どれくらいしっかりお薬を飲めたかという割合が7分の6、7日のうち6日飲んで85%だったのが、飲めなかった日がほぼなくなったという結果が得られております。
今日一番お伝えしたいことがこちら、子どもたちが一生懸命描いた絵は、すぐに心に届きます
大事なのは、自分の大切な人のために何かをする、そのときに意識が芽生える。それを、お薬をしっかり飲んでいただきたいということに結び付けたのが、今回の企画、取り組みとなっております。

松岡:

最後のスライドです。まとめとして「三方良し」。

これは商売の教えのような言葉で、売り手と買い手と世間、この3つに対して役に立つことが大事ですよという教えで、今回の取り組みは、まさにこちらに当てはめることができます。

1点目、この企画を通して、患者さまの健康への意識が向上したところを「患者良し」とさせていただきました。

2点目、この薬の袋の印刷をやってくれるから、うちの薬局に来ましたよといった声を、たくさんいただきました。
地域に選ばれる、また皆さんに役に立つ、喜んでいただける薬局になる、これが「薬局良し」です。

3点目、こちらは飲み忘れを減らすことで、患者さんの症状の悪化が防げる。それが医療費の削減につながる、これを「社会良し」とさせていただいております。

松岡:

最後に1点お伝えしたいことですが、今回の私の取り組みでポイントとなっているところです。

例えば、お金がかかったり、設備がかかったり、手間がかかったりは、そういったところは一切ございません。どの薬局でもすぐに取り組めるアイデアではないかと考えております。

また、こういったことができる薬局が広がっていけば、よりこちらの効果が高く得られるかと思いますので、今回このような場でお話しできて幸いに思っております。

ご清聴ありがとうございました。

(拍手)

質疑応答

司会:

それでは、審査員の方々から松岡さんへコメントを頂戴したいと思います。まず、池田貴子様、お願いいたします。

株式会社マザーレンカ 代表取締役 池田 貴子 氏

池田:

発表、お疲れさまです。すてきな発表で、わくわくさせていただきました。

さすがに周囲や世の中のことに、よく目を配っていらっしゃるなということを感じました。
その中で、すごく興味深いなと思ってご質問させていただきたいんですが、1つは、この取り組みは、始められてから今までどのくらいの期間されていらっしゃるんでしょうか。

松岡:

実はこちらのエール薬局鴨居店ですが、オープンしたのがちょうど1年くらい前になりまして。
昨年の7月からなので、そこから2~3カ月くらいで始めましたので、実質まだ薬局が新しいこともあって、まだまだ半年ほどの期間の取り組みになっていますが、その中で皆さんに喜んでいただいております。

池田:

今、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師ということで、まさにものから人へという中では、温かいコミュニケーションによって意識を高めようということで、すてきな取り組みだなと思っているんですが。

実際にはやはりご商売の話になると、かかりつけ薬局としてこういったことをやったことによって、利用する方が増えましたとか、選ばれる薬局になってきたというお話はあったんですけれども、そこから、さらにもっと踏み込んだ形で登録が増えたとか、そういうことはあるんでしょうか。

松岡:

具体的に、例えば数が、月の処方箋が何枚増えましたとか、そこまではないんですけれども。

うちの薬局の場所も住宅街、団地などがたくさんあるようなところにございまして、お母さまとお子さんというような方がすごくたくさんいらっしゃって。

お母さま方の間でお話が広まって、「話を伺って、それで来ましたよ」というお声を頂いたりといったところから、やはりこの取り組みによって、周りの地域の患者さまが喜んでうちの薬局に、それを目的に来てくれる人がいらっしゃったと確認できたので、そういう結果は出てはいます。

池田:

そうですよね。すごく将来性のある取り組みで、取り組みやすさなど含めて、すごくいいなというふうに感じました。すてきなお話をどうもありがとうございます。

松岡:

ありがとうございました。

司会:
ありがとうございました。では続きまして岸田徹様、どうぞお願いします。

NPO法人がんノート 代表理事 岸田 徹 氏

岸田:

ありがとうございます。すごくすてきな取り組みで感動しました。

その中で、お子さんやお孫さんと一緒にといったところはがん教育にも通じていて。
今はがんの授業が小学校、中学校でも、もう取り組まれています。そういったところが通じるなと思ったんですけど、そこで2つ質問をさせてください。

1つは、お子さんやお孫さんとそのおじいちゃん、おばあちゃんを結び付けるためのプライバシー的なところって、どうやって管理されているのかといったところと。

あと僕自身、ちょっとがんを経験して子どもができない体になってしまったんですけれども、そういうところへの、子どもがいない人への逆に配慮とかというのは、今後の課題なのか、それともなんか考えられているのか、そういったところもちょっとお聞かせいただければと思います。

松岡:

ありがとうございます。1点目のプライバシー的なところでございますが、どこの薬局でも、患者さまが初めてかかったときに、アンケートを書いてくださいというので、そちらはプライバシーを守って薬局のデータとして保管しておりまして。

そこでご住所などを書いていただくときに、薬局ではそういったところからもご家族などが分かるようになっていて、プライバシーを守りながら、薬局のほうですぐに患者さま同士、ご家族などは分かるようにという風に紐付けさせていただいている。

松岡:

2点目が、お子さんがいらっしゃらないような患者さまに対して、正直、今回の発表におきましては、もともとここの薬局が小児科の患者さんをメインで受けている部分があって、そこでお子さんがいるお母さんなど、患者さんに喜んでもらいたいということだったので。

お子さんがいない患者さまというところに対して、なかなかまだ今日の話ではつながるところがないので、そういった工夫ができるようにいろいろ膨らませて考えたいと思います。

岸田:

ありがとうございます。

司会:

それでは松岡さん、発表ありがとうございました。

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