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【後編】薬局アワード作戦会議 その裏側で語られていること
第2回以降のイベントをさらに盛り上げようと、去る2017年9月24日に「みんなで選ぶ 薬局アワード作戦会議 〜みんなDE勉強会ver.1.0~」が開かれました。
その際、薬局アワードスタッフに直撃!参加者のみなさんが、忙しい業務の合間を縫ってでも見てみたい、手伝いたいと集まる本イベントの魅力はどこにあるのか、スタッフとして関わる方々に、引き続きうかがっていきます。
取材させていただいた薬局アワードスタッフのプロフィールはこちら
薬局は、人や異業種に、開かれた業界になれるか
──先ほど(※前編参照)、昨今は、薬局のM&Aなどが盛んだというお話が菅原さんから出ましたが、薬局業界の再編が進んでいるということですよね?
菅原
加速していますね。
経営者の高齢化や業界の先行き不安などから、譲渡のご相談をいただく機会が増えています。後継者不在や、ライバルの大手チェーン店が近くにできた、医療モールの建設の影響などはよく話題に上がりますね。
買い手さまの場合は、独立したいとか、好立地の店舗なら欲しいといった経営戦略のひとつとしてM&Aを考える薬剤師さんが多いです。
中尾
薬局は、もともとは駅周辺や病院周辺にあると有利という「立地依存度」が非常に高い業種なんですね(笑)。もっとも、そういう時代だからこそ、改革のしがいもあるとも言えます。
菅原
本当にそうですね。
私が「薬局アワード」で得た情報を、たとえば、ある薬局さんでこういう取り組みをしていましたよとか、こういう風にしていくと地域密着のサービスができるんじゃないですかとか、M&Aの現場にフィードバックすることもできますし、逆も可能です。
私の持つ情報をひとつのツールとして、上手に利用していただきたいと思うんです。
なので、独立の夢を持たれている薬剤師さんが会話の中からヒントを得て、それまで考えていたプランとはまた別の、新たな着想につながったりするのは、とてもうれしいことです。
中尾
薬剤師同士だけでなく、薬の世界を離れた異業種とのつながりを持つことの重要性には同意見です。
放っておくと、薬剤師さんはすごく閉鎖的な生活になりがちでしょう。シフトなどの関係で、薬局と家とをただ往復するだけの生活になると、情報が狭まる。
工夫しようにも情報に疎くなれば、どうしたらいいのかわからないと思考停止してしまいかねない環境に陥ってしまいます。
一方で、いろいろな勉強会に参加されている方でも、薬剤師の先生方が集まる会など業界内だけしか見ていないこともありますね。
工夫を模索しようにも、自分ひとりの頭で考えることには限界があるのではないでしょうか。とするなら、すばらしい取り組みをされている薬局さん同士が情報共有し合う「薬局アワード」のようなイベントを、マインドセットのきっかけにしてもらえたらいいですね。
他業界の人から「自分ならもっとこうする」などの意見をもらえる場になるのも気付きになりそうです。
福田
僕は前回の薬局アワードの発表を聞いて、これは面白い!と思い関西に帰ってから何人か周りの薬剤師に、「薬局アワードは面白いからどんどんやっていきましょう」と言ってみましたが、あまり良いリアクションは返ってこなかったんですよね。既成概念から一歩踏み出す気もない人たちには響かないわけです。
当事者たる薬剤師の立場から言わせてもらえば、もう、努力しない薬局はいらない、感度が高い人たちだけが生き残ればいいとさえ考えてしまいます。
厳しい意見かもしれませんが、現状を本気で変えたいと思っている人たち向けに発信していければ…。そういう層には、このイベントも有効だろうと思います。
中尾
私も「薬局アワード」を通して、福田さんがおっしゃるような、開かれたマインドを広めたいんですよ。
一方で頑張っている薬局さんが忙しくて出られないのもあるのでそこは個人的に悩んでいます。
イベントだけだと時間と場所が拘束されるのもネックですよね。とはいえ遠隔だと熱量が届かないので悩ましいです…。
福田
とはいえ、僕も薬剤師という仕事への意欲が希薄だったころもあったので、いまさら変えなくてもいいという気持ちもわからなくはないです(笑)。
製薬会社のMRなどを経て、要は独立したいという思いが強くなってから、薬剤師はどうあるべきかを真剣に考え始めました。この「薬局アワード」とのつながりができたことも大いに影響していると思います。
中尾
薬剤師さんという仕事は、自らの薬学的知見をベースにして、患者さんの健康をマネジメントするスペシャリストです。
親族にもいるので助けられているのでその価値は体感していますがその分、僕のような門外漢から見れば、違った目線の問題解決もあるのでは?と思ったりもします。
一例を挙げれば、腰に病的な痛みを抱えた患者さまがいて、求めているのは、もしかしたら痛み止めではなく “杖” かもしれない。それなら、杖を用意している薬局があれば、患者さまにとってはよりハッピーな場所ではないでしょうか。
薬学的なアプローチも有効ですし、杖もあるんですよという気配りが、患者さまの役に立つこともあるかもしれないですよね。在庫リスクがあるならばものを売ることまでしなくとも、買える方法を紹介するだけでも人はそのアドバイザーの薬剤師に感謝し、リピーターになるものです。
竹中
薬局で、患者さんに合わせた栄養士による栄養指導とともに、宅食サービスをされているところもありました。
薬局での健康相談とともにご自宅の環境を直接見ることによって、カウンター越しだけでは難しい、食事のアドバイスを行うことができるという素晴らしいメリットがありますよね。
健康でありたい、けど食事の用意が難しいという方などには、とても喜ばれることだと思います。
中尾
本当に素晴らしいサポートだと感心したんですが、「それって薬と関係ないじゃん」という反応も挙がっていました。
ただこれも、薬局をどう捉えるかの違いです。その命題は、これからの「薬局アワード」にとっても、これからの業界にとっても、考えていくべき大きなテーマのひとつだろうと思いました。
「薬局アワード」は、業界ボトムアップの原動力を担えるか
───今年の6月には「健康・医療戦略」が閣議決定されるなど、日本では健康長寿社会実現のための取り組みがますます求められていきそうです。特に薬局は、地域医療の担い手としての役割が大いに期待されていますよね。福田さんの薬局では、高齢者向けヨガ教室以外に、取り組んでいらっしゃることはありますか。
福田
まだ始めていない企画なのですが、薬局発で、認知症予防のため学習療法をやってみたいですね。
いま現在は、認知症の診断が下されたら、基本的には薬物療法になります。ところが、学習療法という簡単な計算や読み書きなどで一人あたりの年間介護費用を約20万円下げられたというSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)調査事業の報告があります。
超高齢者がとても多いエリアでして、薬剤師は日常的に患者さまと接して変化を見ています。認知症と学習療法の関わりも把握しやすいのではないでしょうか。
——薬剤師さんと患者さまが、薬を介さず関わるということですね。そうしたコミュニティーでの取り組みを拡げていかないと、高齢者の問題って絶対に解決しないですものね。
福田
絶対にそう。それを薬局が担ったら、すごくいいと思うんですよね。
竹中
尼崎でその明確なデータが示せたら、全国的に広がっていくでしょう。福田さん、成果はいずれ一般の方に向けて「薬局アワード」で発表して下さいね(笑)。
───最後に、これからの「薬局アワード」や、薬局の今後あるべき姿など、未来への提言があれば教えてください。
竹中
イベント発足当初から、継続して開催することを大切にし、3回目にはきちんとした成果を出したい、を目標にしています。
経験から考えると、こうした企画は大抵3回が壁となり、そこまでにある程度の完成形を作れれば、いつまでも自身が旗振りをしなくても、自然発生的に拡がっていくものだと思ってます。
もちろん立ちあげの1回目は非常にエネルギーを要しますが、つなぎになる2回目を成功させないと、3回目も危うくなります。
回を重ねてスタッフさんの数が増えてくると、反作用的に、メンバー間でモチベーションに差が出てくることもあります。2回目となる来年は正念場になので、いつの日かしっかりと誰かにバトンを渡せるようにがんばりたいです。
福田
「薬局アワード」の参加者と触れあって感じるのは、ひとりひとりに夢やモットーなど“思い”があることです。そういう意味では、ホスト側、ゲスト側と分けなくてもいいのかなと。
参加されている人がみなそのままスタッフの一員として、気持ちをひとつにして作っていくようなイベントにできれば最高です。
竹中
福田さんがおっしゃるように、僕もみんながスタッフでもいいと思っています。
まだ実際には一度も参加していないとか、あるいは参加したいのだけれどちゃんと手伝ったりできるか心配という場合もあるかもしれません。
そんな人ほど、まずは「薬局アワード」のステキなみなさんにぜひ、会いに来てもらいたいです。きっといい刺激を受けるのではないかと思います。
規模が大きくなると、実務的にもっと大勢のスタッフが必要となります。事務局にコンタクトしてもらえれば、いつでも大歓迎です。
中尾
業界に精通した方、特に薬剤師さんには、やっぱり参加していただきたいと思うんですよね。また、この企画を広めるのであれば、マーケティングや広報のプロの方がいれば話は早いので他業界の方もウェルカムです。
───さまざまな背景を持ったスタッフが集まれば、いっそう頼もしいですよね。
中尾
しかしながら、「薬局アワード」はひとつの“企画”でしかありません。これだけで、いま薬局業界が抱えている問題がすべて解決するとも思っていないからです。
たとえば、薬剤師の女性の割合は非常に高いですが、家庭との両立に悩む人はとても多い。現場の業務だけでも忙しくて、それ以上の努力をする余裕がないというのもわかります。
労働時間の問題を解決しない限り、患者さまにプラスアルファ的な付加価値を提供するのが難しい。それは業界全体の課題かもしれません。
菅原
考えてみれば、患者さまに来ていただきたいから、いい薬局にするんじゃなくて、行ったところがいい薬局だったというのが、おそらくいちばんの理想の形だと思うんです。
薬局の取り組みが変えやすいのは個人経営や中小企業の薬局でしょうが、最終的には、薬局アワードを通して大手薬局チェーンも変えていこうという流れになっていけば本当にすばらしいなあと思います。
竹中
環境ばかりに頼るのではなくて、薬局でできることを私たち自身で考えていくことが大切だと思います。
「薬局アワード」がその一助になり、業界全体のボトムアップにつながることができれば嬉しい限りです。
薬局アワードスタッフのプロフィール
※左から
たけなか・たかゆき 株式会社バンブー 代表取締役、一般社団法人薬局支援協会 代表理事、薬剤師。1984年、静岡県出身。共立薬科大学卒。外資系製薬会社に勤務後、独立。薬局事業、岩盤浴やエステなどの美容事業、医療機関向けのECサイト運営などのメディア事業、介護事業などを手がける。
なかお・ゆたか 株式会社カケハシ代表取締役。武田薬品工業株式会社に入社後、MRとして活動。日本の医療の課題を、薬局、薬剤師の視点から改革することを思いつき、2016年に、KAKEHASHIを創業。タブレットを使って服薬指導や健康指導などがわかりやすく行えつつ、薬歴の業務負担を実現するクラウドサービス「Musubi」をスタートさせ、話題となる。
ふくだ・じゅん 株式会社コーディアル代表取締役、薬剤師、一般社団法人 尼崎市薬剤師会理事。株式会社バンブーに勤務していた縁で、竹中氏と知り合う。現在は、兵庫県で2店舗の薬局(まごころ薬局)を経営しながら、地域のコミュニティーを再構築する事業を展開中。
すがはら・みき 株式会社日本経営承継支援 広報担当。2017年より現職。市井の人々の目線に近い立場から、薬局業界が抱える問題を改善していこうと奮闘中。
※ファーマシストライフ編集部 (取材・文/三浦天紗子)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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