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患者様の本当の健康のために。夢を語って叶える喜びを薬局で提供 -ヒルマ薬局 小豆沢店
ヒルマ薬局小豆沢店 比留間康二郎さんのプレゼンテーション
今回は「みんなで選ぶ 薬局アワード」で、最優秀賞を受賞した、東京都板橋区のヒルマ薬局小豆沢店 比留間康二郎さんのプレゼンテーションをご紹介します。
テーマは「必要なのは薬じゃなくてあなたの夢」
司会:
前半最後の発表となります。東京都にあります、ヒルマ薬局 小豆沢(あずさわ)店『必要なのは薬じゃなくてあなたの夢 -ヒルマ薬局の挑戦-』発表者、比留間 康二郎(こうじろう)さん、お願いいたします。
(拍手)
比留間:
「康二郎先生、薬局の夢考えてみませんか」
今から6年前のことです。1人のある女性スタッフが私にこう言ってきました。
えっ、何、薬局の夢? 突然、何を言い出すんだろう。と、びっくりしたと同時に、スタッフが自ら薬局の将来を考えてくれていることに、すごくうれしさを感じました。
比留間:
ただ、いきなり、みんなで薬局の夢を考えるって言うのは、ちょっとハードルが高いかなと思った私は、まずスタッフ一人一人の夢を考えてみることにしたんです。
当時ヒルマ薬局で働いていたのは、私と、きょう応援に来てくださっている今93歳になるおばあちゃんも含め9人。
「薬局を閉めてから、みんなで夢を書いてみない?」そう提案すると、
「え、夜ですか」
「私、夢とかないんで、そういうの無理です」
残念な反応でした。
そこで「これは研修です」と伝えると、皆さん渋々参加してくださいました。
(会場笑)
比留間:
ところが夢を書いてみると、皆さん、どんどん夢が出てきて笑顔になっていったんです。
「ダイエットしてきれいになりたい」
「趣味のフラワーアレンジメントで教室を開きたい」
「40万の給料が欲しい」
本当にいろんな夢が出てきました。
この夢を応援したいな、自分に何かお手伝いできないかな。
そう思って、
ヒルマ薬局の本店で行っているダイエットカウンセリングのモニターになってもらい18キロ痩せてもらったり。
趣味のフラワーアレンジメントを薬局の店内で開催したり。
給料を40万円に上げるのは… ちょっと待ってもらいました。
(会場笑)
比留間:
みんなの夢がちょっとずつ叶っていた、ある日。
私は、「今度は薬局の夢を考えてみない?」と提案しました。すると今度は違った反応が返ってきたんです。
「いいですね、やりましょう!」
薬局の夢は、自分の夢を考えたとき以上にいっぱい語ってくれました。
「お客さまがくつろげるためのきれいな店内にしたい」
「広い休憩室が欲しい」
「手話でお客さまとコミュニケーションとれる薬局にしたい」
比留間:
薬局の店内は、お客さまがくつろげるためにリフォームし、
2人休憩に入ると狭くて、なかなかゆっくりと休憩も取れない休憩室は、ワンルームのマンションを借りて今では昼寝さえできるような、そんな休憩室になっています。
スタッフ自ら手話の勉強会へ足を運び、今では2人のスタッフが手話でお客さまとコミュニケーションをできるようになりました。
夢の話は一向に止まりません。
「最新の機械を使ってお客さまに薬を渡したい」
「地域でもっともっと愛される薬局になりたい」
「行列ができる薬局にしたい」
スタッフ自ら、いろんな夢を語ってくれました。
そんな薬局の夢を、みんながどんどん叶えてくれる。自ら積極的に、そして楽しそうに夢を叶えてくれる姿を見て私は感じました。
これはスタッフだけじゃない、薬局だけじゃない、お客さまにだってこの喜びは提供できるんじゃないか。
私は薬剤師として常々疑問に思っていたことがあります。
比留間:
薬局はお薬を渡すだけの場所で本当にいいんだろうか。
私はお客さまに体も、そして心も健康になってほしい、ずっとそう思っていました。
お客さま、おっしゃるんです。
「もうこんなに薬飲みたくないよ」
「薬で、お腹いっぱいだな」
「俺なんか別にもう、どうなったっていいんだよ」って…
私はお客さまに本当の健康になってもらい笑顔になってもらい夢を叶えてほしかった。
そこで私は薬局の掲示板に『ドリームマップ、一緒に作ってみませんか』一枚の張り紙をしてみました。
比留間:
1週間たっても1カ月たっても、残念ながらお客さまの声は掛かりませんでした。
薬局だし、夢なんてお客さんに関係ないのかな…半ば諦めたところ、今度は私のほうから「一緒に作ってみませんか」と馴染みのお客さまに提案させていただきました。
すると「え。私、夢とか考えたことないんで、そういうのご遠慮いたします」最初はそんな言葉を頂きました。
でも、何回もお誘いして「じゃあ、康二郎先生がおっしゃるのなら、1回ぐらい作ってみましょうかね」と渋々参加していただきました。
ところが皆さんの夢をつくっていくと、
「楽しかった」
「このドリームマップ部屋にも飾っておきたい」
「私にこんな夢があったなんてね」
どんどん、みんなが笑顔になっていったんです。
比留間:
「孫の顔がみたい」
「家族と一緒にオーストラリアに旅行に行きたい」
「主人と笑顔で食事がしたい」
お客さまの夢の話は一向に止まりませんでした。
夢の話を聞いたとき、この夢を叶えたいと思ったのは、もちろん私だけではありません。
1人のスタッフが、『主人と笑顔で食事がしたい』と語ってくれたT子さんに「フラワーアレンジメント教室にお誘いしてみてはどうですか」と提案してくれました。
T子さんは認知症の旦那さんがいらっしゃって、認知症を患って7年間ずっと介護の生活、症状はどんどん悪化してTさんに罵声を浴びせる日々。T子さん、家にいるのが怖くなっちゃったんです。
だから、まずは家の外での楽しみを見つけてほしかった。
フラワーアレンジメント教室にお誘いして、丁寧に一生懸命お花を作られている姿を見ました。
3回目のフラワーアレンジメントで参加された翌日のことです。T子さんが走りながら、ちょっと涙を流しながら薬局にいらっしゃったんです。「T子さん、どうしたんですか?」と尋ねると、
「聞いて。この花見て主人が笑顔になったの!
この花きれいだね、今度いつ持ってきてくれるんだい、って笑顔で言ってくれたの。」
比留間:
T子さんの夢だった、旦那さんとの笑顔の夢が叶ったんです。
それだけではない。T子さんは高血圧や不安症、いくつかの疾患を抱えて何種類もの薬を飲まれていました。
この夢が叶ったことがきっかけで、T子さんの安定剤を減らすことができたんです。
薬局がお客さまの夢を聞く、そんなの薬局がすることではないんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、この薬局を最高のものにしたい、だから私は夢のドリームマップを作り続けお客さまと一緒に夢を叶えていく、そんな薬局をつくりたいと日々精進してます。
司会:
比留間さん、発表ありがとうございました。
(拍手)
質疑応答
司会:
そうしましたら審査員の方々からコメントを頂きたいと思います。坂口様、お願いいたします。
東京薬科大学 客員教授、浅草薬剤師会 会長 坂口眞弓 氏
坂口:
プレゼンありがとうございました。初めタイトル見たときに、どんな話になるのかなあって、すごく期待しながら楽しみに聞いてたんですけれども、なんか夢っていいですよね。
私も今、あなたの夢ここに書いてよって言われたら、多分書けなくて、何言ってるのよってなるかもしれないけど、やっぱり夢を語ること、そしてそれって書くことで何となくそれって実現しそうな感じにもなるし、笑顔になっていくんだろうなと思うんです。
坂口:
これって考え出したわけじゃない?今、6年前っていう話を聞いて、もしかしたら2011年の ”あの後” 考えたっていう?
比留間:
そうです。私自身、東日本大震災のときに、東京都の第1陣として薬剤師の災害派遣に行かせていただいて、そこで1人の看護師さんに出会って。
その方はご家族が被災に遭われていて、安否の確認ができていなかったにも関わらず、看護師として避難所で一生懸命、医療職の責任を全うされていました。
その方に「なんでご家族のことがあるのにこういう活動ができるんですか」ってお伺いしたときに、さらっと「私は看護師だからです」って言われました。
そのとき自分は「薬剤師として何をしてきたのか」って思ったときに、何もしてこれてなかった自分がいて、すごくふがいなさを感じて。
だからこそ、そのとき ちょうど31歳だったんですけれども、そこから自分に薬剤師として何ができるのかっていうことを、すごく考えさせていただくきっかけになりました。
坂口:
そうですよね。そのときは多分、1週間後ぐらいでしたっけ、行かれて、本当に大変な中から、薬剤師としての仕事を見つけて、本当にゼロの状態から始めた。多分、原点なのかなっていう気がしますね。
その思いで薬局に行って、やっぱり、その来局者、そして患者さんを笑顔に、っていう考えで進めていくって、とっても本当に感動しました。
ドリームマップもできたし、また、次はどんなこと考えているのかなっていう気がするんですけど、いかがですか。
比留間:
次は、やっと薬局の地盤ができたと自分の中では思っているので、ここから、どんどん地域に、もっともっと住民の方とのつながりを求めて、ヒルマ薬局が生まれてから死ぬまで関われる場所っていうところを目指して動き始めています。
坂口:
また、いろんなアイデアが出てくるんでしょうね。またそれを期待していきたいと思います。ありがとうございました。
(拍手)
司会:
ありがとうございます。ではもうひとかた、ご意見伺います。入沢様、お願いいたします。
NPO法人医療福祉クラウド協会 理事、株式会社エヌアイエスプラス 代表取締役 入沢厚 氏
入沢:
すてきな発表、ありがとうございます。
今日は薬局アワードということで、薬局そのものの取り組みをプレゼンテーションされるかなと思ってたんですけど、それをちょっと超えたような、すごい大きい話をしていただいたのかなと思います。
入沢:
一番最初にスタッフの方が夢って話をしたときに、スタッフにじゃあみんなに夢を語ってもらおうって言ったら、最初はみんなから、え、夜残業もある、みたいなことで対応してくれなかったとありましたよね。
で、それを研修だよって言ったらどうにか、どうにか語るようになりました、と。
語るようになったらスタッフっていうのはどんな感じで生き生きしてきたかな、またそれを話そうと思ったきっかけってなんだったのかなって、その切り替わるきっかけがなんかあると思うんですが、そのへんどうお感じになったかなと。
比留間:
実はこのドリームマップというものなんですけれども、1日2時間ぐらいの研修では終わらないもので、3回に分けて今の現状、自分がどんな状態であるのかっていうことと、なんか望んでること、例えば旅行に行きたいとか資格が欲しいっていうことを、まず未来のゴール地点というものを考えていくんです。
それを今の現状の自分とどれだけギャップがあるのか、何をしたらこの夢が叶っていくのかっていうことまで、研修の中で落とし込んで考えていったっていうことが、皆さんがきちんと自分がこうなっていきたいっていう夢を語ったり、こういうふうな人生を歩みたい、お客さまだったらこういう最後を迎えたいということをきちんと順序立てて考えていったっていうことが、スタッフの発表へのモチベーションだったり仕事へのモチベーションに切り替わっていったのかなっていうふうに感じています。
入沢:
発表、みなさんに語る前と語った後では、薬局の中の雰囲気っていうのは全然違うわけですか。
比留間:
違いましたね。自分の薬局がこうなりたいって貼ったときに、ふとしたときに、そのドリームマップをスタッフみんなが見て、あ、こうだった、こういうふうに私たちの薬局はしていくんだったっていうことを思い出して行動に変えていってくれているのかなと感じています。
入沢:
なるほど。その次に、薬局の中で、今度は地域住民の方に対して夢を一緒に語っていく、そのときのほうがかなりハードルが高かったと思うんです。研修って形で地域の方いけないので。
そこをどう切り込んできたかってところも、すごい努力をされたと思うんですけど、そのへんの話も聞かせてもらえますか。
比留間:
最初はやっぱり、やったという事例をつくることが大事かなと思って、私の友達とかにも協力してもらって夢をつくる時間をいただきました。
で、薬局の中でもこういう夢をつくれるんだっていうことを、ちょっと自信を持って伝えていきました。
それで、お客さまの反応も「まあ、こういうことなら、ちょっとやってみようかな。なんか面白そうかも」、みたいな感じで徐々に変わっていったっていうのを、すごく肌で感じました。
入沢:
なるほどですね。すみません、最後になるんですけど、さっきから夢について伺っていて、その中で「自分はこうなりたい」というよりは、「周囲の人を笑顔に」っていうような、自分以外の人に対する配慮の気持ちが語られている夢が、すごく多く出てきているなって感じました。
こういう自分以外の人に対する配慮の気持ちを、薬剤師だとか医療従事者の人たちだけでなく、地域の人たちが持ってるっていう、そういうところから、人は夢という形で、お互い支え合って、それぞれの夢を実現していくというのかなと。本当に、そんなところを伺ったような気がして、すごく感銘を受けました。
ありがとうございました。
(おわり)
今後は、ヒルマ薬局小豆沢店さんへの取材や、その他の代表薬局のプレゼン紹介、エントリー薬局の特集なども予定しています。お楽しみに!
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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