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【第5回】知識・経験の豊富な薬剤師が常駐する「健康サポート薬局」の必要性 !?
この時代に生き残る薬剤師と、これからの薬剤師業界の変化について、星薬科大学 薬物治療学教室の亀井淳三教授にインタビュー!とうとう連載 最終回です。
「かかりつけ薬剤師」といった制度を、薬局に光を当てて見ていくと、厚労省が目指している「健康サポート薬局」の創設へとつながっていきます。
そんな、健康サポート薬局、在宅医療における訪問薬剤師の役割を含め、薬剤師という仕事を通じて、私たちは何ができるのかということについて伺っていきます。
チーム医療において、訪問薬剤師が果たすべき役割があるはずです
──そもそも「健康サポート薬局」とはどういうものなのでしょうか。
かかりつけ薬剤師やかかりつけ薬局の業務とは、第一に、患者さんの服薬情報を一元的、継続的に把握、管理、指導することです。
さらに24時間の対応や在宅の対応、かかりつけ医など地域の医療機関との連携などです。そうした基本的機能を備えた上で、当該地域の保健、医療、介護などと緊密に協働し合えるシステムづくりが求められています。
基本的な機能と包括的なケアシステムの基盤を持ち、地域住民に主体的な健康の維持や増進を支援する薬局が、「健康サポート薬局」ということになります。
もっとかみ砕いて言うと、OTCから健康食品までを常備し、セルフメディケーションから受診勧奨までこまやかなサポートができる薬剤師になりましょうということですね。
※イメージ写真: PIXTA
それには、処方薬だけでなく、健康食品やサプリメントの知識、病気の知識、患者さんの容態などにも目を配り、「こういう症状ならこのお薬(あるいはサプリ)がいいですよ」「それだったらすぐに病院に行ってください」と判断がつけられるような職能が必要になってきます。
健康サポート薬局にはそうした知識と経験が豊富な薬剤師を常駐させなくてはいけないので、何人集められるかも肝心ですよね。
──いわば「スーパー薬剤師」への期待と責任は、地域医療の面からもますます大きくなりそうですね。
薬剤師という仕事を通じて何ができるのかという可能性を探っていくと、在宅医療における訪問薬剤師の役割についても考えていくことになります。
薬を届け、「ちゃんと飲んでくださいね」というような通り一遍の服薬指導だけでは、ネットショップの宅配業者と変わらないじゃないですか。
ある学会で、「訪問薬剤師をやっています」という人と話をしたことがあります。
彼曰く、訪問先は尿道カテーテルをやっているひとり暮らしの患者さんで、尿バッグがぱんぱんだった。ドクターに電話してみたらあいにく不在で、すぐに連絡がつかなかった。かわいそうだと思い、自己判断でカテーテルを抜いたそうなんです。
おそらく本人は「いいことをした」という自己満足でそのときの武勇伝を私に話したのでしょうが、医者が尿道カテーテルを留置しているのには目的がありますし、抜去するタイミングなども症状などで変わってきます。抜去後には適切なケアが必要です。
患者さんのためと言うけれど、それは本当に患者さんのためになったんでしょうか。
適切な知識も深い配慮もなく、上っ面だけ治療の真似事をしても、患者さんにつらい思いをさせます。さらに薬剤師という自分の地位も危うくします。
この場合、一番いいのは、もしドクターと連絡がつかないのなら、「救急車を呼ぶこと」だったと思います。
そういえば、「薬を届けるついでにバイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸、体温)を測っていいと言われているので、行くたびに測っています」という薬剤師さんもいますね。
しかし、バイタルサインを測る本当の目的をわかって行っているのか、きちんとかかりつけ医にフィードバックしているのか、むしろそちらが気になります。
健康サポート薬局の名にふさわしい薬局になる努力をしていますか
──健康サポート薬局で働く上で大切なのは、どういった点でしょうか。
健康サポート薬局の業務で大切なのは、医療や介護の機関との連携ができているかです。薬を届けたと同時に、患者さんの様子をドクターに知らせるといった密な関係性の構築がむしろ重要ですね。
それには、患者さんのかかりつけ医と本当の意味でチームを組んで、訪問のついでにドクターから言われたことをやったり、患者さんのいつもの状態と違うなと感じたことをドクターに戻したりということも、チームで取り組んでいるケアの状況を把握できているのであれば、意味があります。
ただ、そのためには医師とはもちろん、患者さんとも密接な関係を作っておかなくてはいけないんじゃないかなと思います。
健康サポート薬局の取り組みはまだ「やっている人の意識は遅れていて、制度は先走っている」という状況です。しかし、少しずつでも前へ進めなくてはいけない社会的な課題でもあります。
厳しいことを言うようですが、自分には、どれだけの経験値や技能や情熱を持って、患者さんやドクター、医療スタッフたちの前に立っているのか。
投薬について、ドクターに適切な進言できるか。在宅に出るのに十分な知識はあるのか。不測の事態にもしっかりとした対応ができるか。
薬剤師として求められていることに応えられるかどうかを、真っ先に自分で把握してほしいんです。
──自分はどれだけの知識を備えて患者さんと向き合っているかは常に問われているということですね。
実は私にも、苦い経験があります。
かなり前ですが、慶応大学病院の血液内科に入って2年くらい勉強させてもらったときのことです。血液内科ですから、リンパ腫や白血病の患者さんなどがいました。
いまのようにインターネットで情報をたくさん取る時代ではなかったにもかかわらず、患者さんは自分の病気について本当によく勉強していました。ある患者さんは、アメリカにいる知人から病気に関しての論文など資料を送ってもらってそれを読み込んでいたほどです。
そのときの私は、己の勉強不足を痛感させられたものです。
重い病気であればあるほど、患者さんたちは自分の病状、治療法、寛解(かんかい)率などをわかっています。
中途半端な知識で「おつらいですね」と言われたところで、患者さんからの信頼は得られません。
信頼を得るには、玉石混淆の情報から、何が正しくて何が嘘で、そのひとつひとつを論理立てて説明、反証できるかどうかだけです。それは薬学の本質にも関わっています。
薬剤師たちの個人的な努力だけではなく、大学など専門機関も、そのためにどういった勉強をさせたらいいか、考えていく必要があるでしょう。
大きな取り組みの中で、薬剤師の仕事の可能性が本当の意味で広がっていったときに初めて、地域に貢献できる「健康サポート薬局」の名にふさわしい薬局が増えていくことが期待できるのではないでしょうか。
ファーマシストライフ編集部
(取材・文/三浦天紗子、写真/土佐麻理子)
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1956年、香川県生まれ。'83年星薬科大学大学院博士後期課程修了。2002年より、星薬科大学教授。厚生労働省医道審議会専門委員、厚生労働省薬剤師試験委員会委員など学外委員も多く歴任。研究テーマとして、1)慢性咳嗽の発症機序および病因の解明2)糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームに伴う中枢および末梢神経系の機能変化とその分子機構の解明 を挙げている。280報以上の原著論文を発表している他、Principle Pharmacotherapy(ネオメディカル)、『治験薬学―治験のプロセスとスタッフの役割と責任』(南江堂)など著書も多数。
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