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ケア・カフェをもとに安心の地域医療介護連携を目指す ‐薬局・なくすりーな
今回は第1回「みんなで選ぶ 薬局アワード」の2次審査をとおして代表薬局に選ばれた6組のうち、茨城県古河市の薬局・なくすりーなから吉田聡さんのプレゼンテーションをご紹介します。
薬局・なくすりーな 吉田聡さんのプレゼンテーション
テーマは「薬局の力で地域をつなぐ‐ケア・カフェ@古河から始まる地域医療介護連携‐」
吉田:
薬局・なくすりーなの吉田聡と申します。どうぞよろしくお願いします。
ちょっといきなりなんですけど皆さんに質問があります。今ご自身、またはご家族とかお知り合いの方が介護されてるっていう方は、どれくらいいらっしゃいますか。
…見たところ大体4分の1いるかいないかぐらいですかね。
もしかしたら皆さん、今手を上げてきてくれた方の中には日頃の介護で何か不安を感じてるって方もいらっしゃるんじゃないかなって思います。
実は介護に関する意識調査を見たら、9割の方が介護っていうものに不安を抱えています。
今日は、薬局の力で地域の医療や介護をつないで、ご家族や患者さんの不安を解消したり、または希望を叶えてあげることができる「ケア・カフェ」についてお話ししたいと思います。
まず最初に僕と薬局・なくすりーなについてお話しします。
吉田:
薬局・なくすりーなは茨城県の古河市っていう所にあります。
僕は5年前にこの薬局の経営を引き継ぎました。そして僕は薬剤師としては18年目です。
そんな僕が大学のときの恩師から言われた一言がずっと心に残ってるんです。
「薬剤師いうのはな、薬の専門家であるだけじゃあかんで。人と人をつないでこそのものや」
初めはよく意味が分かりませんでした。何言うてんのかな、って。
そう思っていたら、先生が次のように教えてくれたんです。
「例えばな、医者は病気のこととか、どうやったら治すかっていうことが誰よりも詳しい。科学者は化学物質について作ったり調べたりすんのは誰よりも詳しい。
薬剤師はどうしても医者や科学者に比べたら専門知識、医療や化学の知識の深さに関しては及ばないこともある。
でもな、両方の知識を持ってるからこの専門家同士をつなぐことはできる。そして専門家同士をつないで初めて新しい治療薬、新しい価値を生み出すことができんねん」
そう教えてもらいました。
それから僕は、薬剤師は薬の専門家であるっていう一面だけではなくって、人と人とをつなぐ、専門家同士をつなぐことも意識して仕事をしています。
この僕が古河で薬局を引き継いで、ある時ケアマネさんからとある相談を受けて、その思いを一層強くしたんですね。
「うちの利用者さん、なんかあんまり薬飲んでないみたい。だけど先生にはこんなこと言えなくて」
薬を飲んでないっていう重大な情報が、医師や薬剤師に伝わってないんですね。
もしここでケアマネさんと医師をつなぐことができたら、患者さんの飲んでる薬の種類であったり飲み方、こういったものが変えられた。そしたら患者さん、もっと楽に薬飲めますよね。そうすれば患者さんもっと元気になるんじゃないかなって思ったんです。
そんなときにちょうど見かけたのがケア・カフェの記事でした。
僕、これを古河でもすぐやろうと思って決断したんです。
ケア・カフェは旭川で4年半前に始まりました。今では全国140カ所余りで行われています。
ケア・カフェはこんな感じの雰囲気なんですね。
吉田:
僕はエプロンをつけて、ケア・カフェのマスターをしてます。
このケア・カフェなんですけども、一言でいうなら医療と介護の専門家が集う井戸端会議みたいなものです。
参加するのは医療や介護に携わる人たち。例えば医師や歯科医師、薬剤師、看護師さん、ケアマネージャーさん、あと基幹病院とか老人ホームの職員の方、こういった現場の方たちですね。その他、包括支援センターの職員さんだったり、保健所、あと市役所といった行政の方たちも来られます。
そういった方たちが一つのテーブルで、コーヒー飲みながらお茶菓子食べて、一つのテーマについて話し合うんですね。
このケア・カフェ、目的が2つあります。
一つは日頃の困り事を相談できる場をつくることです。
例えば、薬剤師が困っていることがあっても、他の専門職種、例えば看護師さんだったらすぐに解決できることもあります。
こんなふうにケア・カフェという相談できる場をつくることで、お互いの職種、お互いの専門家の困りごとを解消しあうことができるのです。
そしてケア・カフェの目的、もう一つは気軽に相談できる関係をつくることです。
同じ地域に働いてるから何となく顔と名前は知ってる。だけどお互いの専門家同士ちょっと壁があるっていうこともあります。
ケア・カフェでざっくばらんに話すことで、人の悩みが分かるんですね。そうすると気軽に相談できる関係がつくれるんです。そうなると何か起きたときに、解決できる人の顔が浮かんでくるんです。
先日、80歳代の女性がうちの薬局来られました。こんな感じです。
「歩けなくて杖が欲しいんだけど」
…でも、うちの薬局、杖は置いてありません。そんなときに介護用品屋さんの顔が浮かんだんです。
連絡してみました。すると介護用品屋さん、すぐに杖届けてくれたんです。患者さんにすぐ杖を渡すことができました。
こんなふうに、ケア・カフェでは医療と介護がつながることで患者さんの希望を叶えることができます。
吉田:
そんなケア・カフェを薬局・なくすりーなでは2013年の7月にスタートしました。
2カ月に1回の開催をしています。先月のケア・カフェで20回目を迎えました。参加してくれた方々は今まで延べ450人以上にものぼります。
それではもう一つ、ケア・カフェでのつながりを軸にして患者さんとご家族の希望を叶えられたという事例を紹介します。
去年の11月のことでした。ケア・カフェでつながった医師から電話がかかってきました。
末期がんの患者さん、60代の男性の方です。どうしても家に帰りたいということでした。
訪問診療や訪問介護、ヘルパー、こういったこの患者さんが家で生活できるための仕組みっていうのはもう既にできていました。
でもこの患者さん、病院では持続静注といって、痛み止めの麻薬を24時間ポンプでずっと入れてないといけない方だったんですね。そしてその薬の量があまりにも多いので、1日3回の交換が必要だったんです。それで家に帰れなかったんです。
僕はそれを聞いて、一番大きなボトルのポンプを提案して、交換の回数を2日に1回に減らすことをお話ししてみました。
そして2日に1回、僕が患者さんのもとに向かうことでこの患者さんは家に帰ることができました。
ケア・カフェでつながったつながりを軸にして、今まで家に帰れなかった患者さんが家に帰ることができる。そんな患者さんとご家族の希望を叶えることができたんです。
でも、このケア・カフェも初めからうまくいってたことはありません。だんだん人が減ってきて開催日には1人しか来ないときもありました。準備とか片付けだって楽ではありません。
でも僕がずーっと楽しそうにケア・カフェやってたりとか、本気で頑張ってるっていうことが見えると、周りの人だんだん手伝ってくれるようになるんです。
そして周りの人がどんどん仲間を誘ってくれるようになりました。こんなふうにお互いが助け合うことでこのケア・カフェ、続いています。
その結果、患者さんやご家族の悩みを解決できるような体制ができていきました。
このケア・カフェ、今ではもうちょっと広がりを見せています。
一昨年の8月より薬剤師会とケアマネ協会、そして古河市の間で連携事業が始まりました。
ケアマネさんが薬の問題を発見して薬剤師に報告します。薬剤師はそれを見て、例えば薬が残っていたら整理したり、場合によっては再利用したり、お薬カレンダーなどを使って患者さんが自分で管理できる、そういったことを支援するような内容です。
さらに歯科医師会も同様に連携事業組むようになってます。今、計画中の段階だということです。
こんなふうに僕は、このケア・カフェっていうので、できたつながりをもとに、14万人の古河市の方、その患者さんやご家族の方たちが安心して医療や介護を受けられる、そして患者さんの最後の希望が叶えられるような体制づくりっていうのをしていきたいと思ってます。
そのために僕はこのケア・カフェ、本気で楽しく続けていきたいと思います。どうもありがとうございました。
(拍手)
司会:
吉田さん、ありがとうございました。それでは審査委員のかたがたにご意見頂きたいと思います。まずは赤羽根様、お願いいたします。
中外合同法律事務所弁護士・薬剤師 赤羽根 秀宜 氏
赤羽根:
赤羽根です。勢いのあるプレゼンありがとうございました。いろいろ興味深く聞かせてないただきました。
赤羽根:
聞いてて思ったのは、このケア・カフェというもの。どちらかというと地域活動というか、薬局自体の取り組みというよりも、市というかそういう系の取り組み、そういうことなのかなということで聞かせていただきました。
ちょっとご質問したいんですが、先ほど鈴木さんからもあったんですが、うちの薬局ではこういうことやってる、こういうことができると、これだけ利用者とつながっているのでこういうサービスが提供できるっていうところを、医療従事者というか介護職の方たちはわかってるとしても、それが患者にどういうふうにして見えているのか、そういう活動はどういうことなさっているのかっていうのがあれば教えていただきたい。
吉田:
正直な話で申し上げますと、あまり患者さんのほうには伝えてないです。
どちらかと言えば、自分があまりそれを目的にしてやってなかったんですね。取りあえず利用者につながろうと思ってやったんですけど、いつの間にかケアマネさんのほうから患者さんのほうに情報が行って、あそこの薬局だったらいいよっていう、二次的な方向から伝わっているっていうことはあります。
でも自分の薬局でこういうことできるっていう形で患者さんにはなかなかお話ししてないのが現状です。
赤羽根:
あともう1点ですが、このケア・カフェって費用はどうなさってるんですかね。参加者の費用とかってどういう形で運営してるんでしょう?
吉田:
これに関しては、そんなにかからないので、うちが完全に持ってます。大体2,000〜3,000円あればできるので。
赤羽根:
全て持ち出しということ?
吉田:
はい。1回飲みに行くこと考えればね、みたいな(笑)
赤羽根:
ありがとうございました。
司会:
ありがとうございました。そうしましたらもうひとかた。入沢様、お願いいたします。
NPO法人医療福祉クラウド協会 理事、株式会社エヌアイエスプラス 代表取締役 入沢厚 氏
入沢:
医療福祉クラウド協会の理事の入沢です。プレゼンありがとうございました。
入沢:
私、今、医療福祉クラウド協会っていう名前を出したんですけど、こちらの薬局の取り組みは、まずサブタイトルがすごいですね。地域医療介護ネットって、”介護”という言葉がタイトルに入っている。医療系の先生から、それはなかなか出てこないので素晴らしいやり方だなと思ってました。
2つだけ質問させてください。
医療方面の連携とすると、中核病院とかに地域医療連携室みたいなのがありますが、そういう所とこのケア・カフェは連携を取っていってるのかなっていうところが1点目。
2点目は、先ほど、がん患者さんのお話があったと思うんですけど、いま赤羽根さんのほうで患者さんにどんなサービスを提供できるかについて、どう知らせてるのかとか質問がありましたよね。
やっぱり医療現場で医療従事者だけが知っているって感じより、患者さんの方でも情報を知りたいってのはたくさんあると思うんですが、そういった方々が相談する窓口になっていくことについては今後考えていらっしゃるのでしょうか。もし考えていらっしゃるとしたら、それに対しての取り組みってどんなことをされているのかな。
その2点、教えていただきたい。
吉田:
ご質問ありがとうございます。
まず最初の地域連携室。これに関してはケア・カフェのメンバーは皆入ってきているので、いつでも連携が取れるような形にはなっているんです。…答えになってますでしょうか。
入沢:
私、地域医療はお医者さん同士をつなぐことも大事なんじゃないかなと思っているんですね。
だから、たとえば中核病院の先生だけがケア・カフェに来てるみたいな形になってしまって、地方に近い病院では自分のことしかやれなくて、医療介護連携が片手間になっているところができているんじゃないかなとか。それで医療介護のコミュニティをどうしても分けざるを得ない状態が起きてしまったりして。
病院の地域連携室よりもケア・カフェの考え方のほうが医療介護はもっと広く連携できると思うので、一緒に取り組んでいくような仕組みができていけばいいのかなと思って質問させてもらいました。
吉田:
すみません。あまりよく分かってなくて…。あと、もう1点は何でしたでしょうか。
入沢:
もう1点は患者さんのほうにはあまり周知してないっていう話をされてたと思うんですけど。
やはり困っている患者さんがいて、そういう方々に対しても薬局が相談窓口になっていくような形とか、薬局に相談すれば全てが解決するような窓口になっていけるといいのではないかなと私は思っているんですけども、そのあたり今後はどういうふうにお考えでしょうか。
吉田:
そうですね。今のところあまり周知についてを考えてなかった、っていうのが実際のところなんですけど、今のお話伺って、患者さんのためにもっと啓発していってもいいのかなというふうに考えました。
入沢:
ありがとうございます。今後も頑張ってください。
吉田:
ありがとうございました。
(おわり)
全国から、創意工夫している薬局の取り組みを募集し、独自の審査基準に基づいた厳正な審査を行い、最終的に代表薬局を選出。一般の方を対象とした「みんなで選ぶ 薬局アワード(決勝大会)」にて発表します。審査員と会場にお越しの一般の方の投票により、最優秀賞の薬局を決定するイベントです。 ※主催:一般社団法人 薬局支援協会
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